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前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ ――弧を描く光の矛先を仰け反ってかわす。 かすかに肌に感じる熱にぞっとしながらもなんとか後ろへ飛んで距離を取る。 「逃がすかよ、オラァ!」 アビスの両肩のバインダーが展開し、六条のビームがシンへと伸びる。 ナイフで直撃コースのものは防いだが、軌道の予測を誤ったひとつが肩をかすめた痛みに顔を歪ませる。 「このっ、正気かよ!? こんなところで!」 「バレる前にカタをつけりゃいいって話だ!」 次々と突き出されるランスを受け流しながらシンは考える。 完全にデスティニーと分断されてしまった。あの2体を相手にしている彼女も気がかりだが、今のこの状況で はそんな心配をする余裕すらない。 ここまで派手にやっているとはいえ、こんな路地裏では自警団がやってくるのも時間がかかるだろう。 「クソッ、なんでこんなことするんだよ!?」 「さてな、理由なんざ知らないし知りたいとも思わないね! オレはあのときの借りを返すだけだってーの!」 振り下ろされたランスをなんとか受け止めるが、直後にバインダー先の砲口が自身へと向けられシンは反射的 に顔を逸らす。 ――ドン! 鼓膜が破れたのかと思ったが、砲弾が壁を砕く音が聞こえたことでその可能性を否定できた。 強引にアビスを押しのけて後ろに飛びつつダガーを抜き放つもあっさりとランスで弾かれる。 「殺す気か!?」 「てめぇがそれを言うのかよ、俺らを散々ブッ壊してきた奴がよ!」 次々と飛んでくる砲弾とビームを身を低くして避けながら路地の角へと逃げ込む。 ――クソッ、デス子は……!? 食らいついたように背後に迫るアビスの気配を感じながら見えるはずもない元いた場所へと視線を向ける。 ここからではあの二体を相手に一人で戦っているデスティニーの戦況を窺うことすらもできない。 助けに行くにしろ助けを求めるにしろこの状況では厳しいことに変わりは…… そこまで考えて、思わず立ち止りそうになる。 ――馬鹿か俺はっ! 本音がどうであれ、今デスティニーの元へ向かうということは彼女の力を借りてカオスたちを撃退するという ことに他ならない。 それは自分への恨みを持った相手を、彼女に背負わせることと同義だ。 一時でもそんなことを考えてしまった自分に歯ぎしりをして、シンは踏み止まり振り返る。 「ハッ! 覚悟を決めたかぁ!?」 「――あぁ、今さらな」 ランスを振りかぶるアビスを正面に見据えて、シンはナイフを構えた。 ポッドから放たれるビームをかわしながらデスティニーはカオスへと肉薄する。 「どかないなら斬ります!」 「やれるもんならやってみやがれ!……ですわ!」 袈裟斬りに振るったフラッシュエッジがサーベルで受け止められる。逆の肩から引き抜いたフラッシュエッジ で逆袈裟に斬りかかるがこれも脚のビームクローにより阻まれた。 「ガイア!」 声とほぼ同時に仕掛けられた下方からの攻撃にたまらず距離を取る。 その先に、カオスの機動ポッドが待ち構えていた。 射出されたミサイルが白煙の尾を引き 「くっ!?」 ミサイルの爆風に煽られ地面へと落下していく。目まぐるしく回るデスティニーの視界に、変形したガイアの 姿が映った。展開されたビームブレイドがその刃を輝かせている。 背筋が凍るような悪寒を感じつつも翼のスラスターを全開にして落下を加速させてやり過ごす。 しかし不安定な体勢のまま急加速をかけたため受け身も取れずに地面へと叩きつけられる。 「がっ……!?」 激痛に歪む視界の中に人型に変形したガイアがサーベルを抜き迫る姿を捉えたデスティニーは飛翔して距離 を取る。 ――ガキッ! 突如身動きが取れなくなり、デスティニーはハッと頭上を見上げる。 カオスが変形させた脚部のクローで両肩を掴み、上昇を妨げていたのだ。 「おーっほっほっほ! チェックメイトというやつですわね……ガイア!」 「うん……」 勝ち誇った笑みを浮かべたカオスの命に従い、ガイアが再びMAへと姿を変え翼に光の刃を宿す。 カオスを振りほどこうともがくが真上という位置関係と凄まじい力で肩の装甲に食い込むクローによりロッ クを外すこともその場から離れることもできなかった。 焦りに染まりきったデスティニーの瞳に、迫り来るガイアの姿が映った。 ――楽勝だ、そうアビスが考えていた。 純粋に戦闘を楽しめそうもないという点はともかく、生身の人間を相手に劣るわけがない。 退屈だが楽な役回りだ、物足りなさはあるが文句はない。 ……そう、楽なはずだった。 (なんなんだよ、コイツ!?) 遠慮など一切せず砲撃を放っている。カオスはああは言っていたが実際のところシン・アスカの生死など どちらでもいいと考えていた。ガイアについては何を考えているか分からないが少なくとも反対する気はない ことだけは確かだった。 だからこそ、アビスはほとんど躊躇することなく本気で殺しにかかった。 ――だが殺せない。退くならばその背を撃つつもりだったが、逆にどんどん前へと進み距離を縮めてくる。 ビームや砲弾がまったく当たっていないわけではない。砲弾を避けても石畳に当たれば砕けた破片が皮膚を 削り、またビームはほとんどをナイフで弾いてはいても捌き切れないものが肌を焦がしていた。 だというのに、瞳に紛れもない戦意を宿しながら徐々に近付いてくるのだ。 いや、ただの戦意ではない。何か別の決意が籠った執念があった。 「このっ、舐めんなぁ!」 バインダーが開き六条のビームが奔る。身をかがめたシンはそのうち一本のみをナイフで弾きさらに前へ出る。 その姿にアビスは苛立ちと共に戦慄を覚えていた。 一方で、慎重に歩を進めるシンは焦っていた。多少どころではない無茶をしたせいで傷を負い過ぎた。生きて いるだけでも御の字ではあるが、それでは不味い。 「……どけ」 「あぁ!?」 「あいつを、助けに行くんだよ」 その言葉がデスティニーのことを指しているのだと気付き、アビスの中に溜まりに溜まっていた感情が一気に 沸点を超えた。 ――助けに行く? デスティニーを? ――自分を無視して? ――……自分が手にかけた相手を無視して? 「は、ハハハハハ……アハハハハハハハハハ! 上等だこの野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 すべての兵装を展開し一斉に安全装置を外す。 もはや周りの被害が広がろうと知ったことかと全身の砲門が凶悪な光を溜め始める。 ――つまり、先ほどまでの攻撃よりもチャージの時間が長い。 その瞬間、シンは動く。今までの慎重さを捨て一気に駆け出すと同時に懐から取り出した玉をアビスへと投げ つける。 ――バシュッ! 破裂音と同時に路地が白い闇に包まれる。 煙幕――ダークダガーとの一件以来使えるかもしれないと数は少ないが用意していたものだった。 不意のことで戸惑ったアビスは動きを止める。このまま撃てばいいのか、一度退いた方がいいのかの二択に 思考までもが硬直していた。 一瞬の判断が命運を分ける戦場ではあまりにも大きすぎる隙の内に、シンは少女の懐に潜り込みナイフを握っ た右手を突き出した。 ガイアが飛翔し、翼のスラスターを噴かす。 カオスはその瞬間、自分たちの勝利を確信した。ガイアのスピードを持ってすればデスティニーの身体など 容易く両断できる。それ故の判断だった。 その認識は間違ってはいない。肩を抑え動きを封じている状況を踏まえて考えるなら絶望的と言っていい。 ――そう、その速さを上回ることでもない限りは。 「――エクストリームブラストモード、起動」 デスティニーがそう呟いた瞬間、その双眸が輝いた。背部スラスターが展開し、光の翼が瞬時に広がる。 次の瞬間、ガイアの軌道からデスティニーの姿が消えた。 「っ、速い……!」 翼が空を切った感覚にガイアは変形しデスティニーの姿を探す。 いた。上にカオスを乗せたまま凄まじい速度で上昇している。かすかながらカオスの悲鳴が聞こえてきた。 圧倒的なまでの推力。サード・ステージの機体の中でもトップクラスのスピードを誇るデスティニーだから こそできる芸当だった。 デスティニーが空中でぐるりと回る。一瞬の停止の後、上昇時とほぼ変わらぬ速さで今度は地上へと下降して くる。 「――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!?」 地上に近付くにつれ大きさを増してきたカオスの絶叫が石畳が砕ける爆音を境に途絶える。 濛々と上がる土煙の中から、デスティニーだけがゆっくりと立ち上がった。 「か、は……」 かろうじて呻き声を漏らしていることからカオスがギリギリではあるが無事であることを知り小さくほっと 息をつくガイアだったが、すぐに表情を引き締めデスティニーへと斬りかかる。 だがその刃がデスティニーへと届く前にその掌から放たれた光にガイアは弾き飛ばされた。 ほとんどチャージもしていない中距離モードだったため撃破までは至らなかったが、それでもガイアは壁に 叩きつけられそのまま崩れ落ちる。 「あ、う……?」 フラフラとカオスが立ち上がり、ガイアの姿を見て息を呑む。 そして無言でアロンダイトを引き抜いたデスティニーに「ひっ!?」と小さく悲鳴を上げた。 大上段で振り上げられた対艦刀を怯えた目で見つめる。足がすくみ、逃げることもできない。 そして、一切の言葉もなく大剣が降り降ろされ…… 「デスティニー!」 「っ!?」 カオスの頭上数センチ手前でアロンダイトが止まる。剣圧により発生した風だけが顔を叩き、カオスは地面へ とへたりこむ。 「マス、ター……!?」 ゆっくりと声の元へ振り向いたデスティニーの視線をカオスも辿ると、アビスを背負ったボロボロのシン・ アスカの姿があった。 「……負けちゃったね」 「くっ、まさかあれほどの性能だったとは」 「お前らはまだ良い方だろうがよ……チッ、あの野郎!」 毒づきながらアビスは立ち並ぶ木のひとつを蹴りつける。 すっかり陽も落ち暗闇が広がる林の中を三人は隠れ家へと向かい歩いていた。 ――あの後、気絶させられたアビスを押し付けるとシンとデスティニーは止め刺すでも自警団に突きだすでも なくそのまま立ち去ろうとした。 ――テメエらっ、情けでもかけるつもりか!? 力が抜けて上手く立ち上がることもできなかったが、屈辱に顔を歪めながらカオスはそう叫んだ。 シンは立ち止り、しかし振り返ることはせず答えた。 ――……そんなんじゃない。ただ、もうこんなことはうんざりなんだよ。 それだけを言って、デスティニーを連れて路地裏から消えていった。 追うことも考えたが、自警団が近付いてくる気配に考えを改めその場を逃げるしかなかったのだった。 「で? どうするよカオス。あの仮面のおっさんに報告すんのか?」 「できるわけがないでしょう!? 返り討ちにあった上にこんな屈辱まで受けたことを!」 「ま、そうなるか。つってもすぐにバレそうな気も……あ? 何してんだガイア?」 一人立ち止り明後日の方を見つめるガイアに気付いたアビスは振り返った。遅れてカオスも眉を寄せて問い かける。 「ガイア? いきなり何ですの?」 「……こっち」 隠れ家とはまるで関係ない方へと進み始めたガイアの様子を怪訝に思いながらも放置するわけにもいかず 二人はその後に続く。 ……十数分は進んだだろうか、相も変わらず続く草木以外に何もない景色に苛立ちながらカオスは先を行く ガイアに声をかける。 「ちょっとガイア? いい加減何か説明を……」 言いかけて、声が止まる。 ガイアが立ち止っていた。その先の闇の中に何かがいる。アビスもそれを感じ取ったのか息を呑む気配があった。 やがて、その『何か』は姿がはっきりと分かるほどまで近付いてきた。 「お、おいおい! マジかよ!?」 「あなた、は……!?」 カオスとアビスはその正体を見上げ驚愕のあまり絶句する。 そしてガイアは、すっと息を吸った。 「――や、はじめまして」 小さく手を掲げる少女に応えるように、『何か』も真似をするように手を上げた。 <反省会~人それをセルフツッコミという~> アビス「そういやカオス、お前なんでそのままデス子にトドメを刺さなかったんだ?」 カオス「え?」 アビス「上を取ったんならそのままライフル撃つなりサーベル刺すなりできたはずだろ?」 カオス「そ、それは……ほら! フ○ストコンビネーションだって弟がトドメを刺せばいいのに兄に譲っているわけで……」 アビス「…………」 カオス「…………」 アビス「もう過ぎた話だしいいか」 カオス「ですわね」 ガイア「結論、カオスがタジャドルプロミネンスドロップを使えば勝てた」 二人「「使えねぇよ!」」 前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ
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前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ 鬱蒼と生い茂る木々、流れる小川。 自らを影と名乗った男はそこにいた。 肩膝を立て、未だ完治していない右腕を退屈そうにプラプラと揺らしながら目の前の焚き火をマスク越しに 見つめていた。 炎の回りには木の串を突き刺した川魚が数匹。火に炙られ香ばしい匂いを漂わせるそれのひとつを手に取り、 ガブリと噛みつく。数度の咀嚼の後に嚥下し、シャドウは皮肉げに口の端を歪ませながら背後に声を投げかける。 「……今度はジャスティスか、忙しいこった」 「セイバーも確認したそうだ。どうやらどちらも自警団に所属しているらしい。少し厄介だな」 「敵の敵は味方、ってワケにはいかねェわなァ」 ケラケラと笑いながらさらに魚を貪る。その様子を見た黒いデスティニーの眉が寄せられる。 「あまり関心がないようだな」 「そらァな、心配したとこでヤルことは変わんねェってのに焦ることもないだろうよ。潰し合ってくれるなら ソイツはソイツで結構なことだしな。それともなんだ? お前はアイツらのことが気になるのか?」 アイツら、と聞いた瞬間黒いデスティニーは組んだ腕に指を食いこませた。 「……奴らに落とされる程度なら、それまでだったということだ」 「ハ、俺ァジャスティスとセイバーのことを言ったつもりだったんだけどな」 鼻で笑うシャドウをキッと睨み付け、黒い翼が広がった。 「なんだ? あの赤羽でも助けに行くつもりか?」 「そんなつもりは欠片もない。気分が優れないだけだ。どうやら私とお前はパートナーとしては不適合らしい」 「そいつァ悪かったな……お前も食うか?」 振り返りもせずに差し出された魚の丸焼きを無視し、翼から粒子を放ちながら黒いデスティニーは何処へと 飛び去って行った。 「……フン、気が気じゃねェって感じだな。自分で始末着けたいって気持ちは分かるが」 苦笑混じりにシャドウはあらかた食いつくした方の串を脇に投げ放つ。 ――スカンッ! 大木に突き刺さり微震する串を一瞥し、右手をコキコキと鳴らす。 「もう少し、か。思いのほかじれったいもんだ」 嘆息しつつ左手に持った川魚に食らいつく。直後にわずかに覗く眉間に皺を寄せると、噛み切らずにそのまま 火の傍に突き刺した。 「……あの野郎、まさか生焼けだって気付いてたのか?」 恨みがましく黒いデスティニーが去った方を睨みつつ、シャドウは舌打ちを漏らした。 (なるほどな、パートナーとして不適合か。まぁ直しようもないだろうが) 互いに協調性がないという致命的な点を実感しながら、しかしどうでもよさそうに鼻を鳴らしてシャドウは その場に寝転がった。 ――ビームが直撃した瞬間、∞ジャスティスのいた空間が爆発した。 もうもうと上がる煙を睨みつけ、デスティニーは大きく肩で呼吸する。真下ではさすがに叫び声が聞こえてく るほどの騒ぎになっていたが、そんなことを気にすることができる余裕もなかった。 ……今まで黒いデスティニーやフリーダムと戦ってきたが、それらとは全く異なる相手だった。ある意味で 自身と最も近い突撃型の戦闘スタイルということもあるのだが、それに剣捌きと体捌きの技巧が加わり手も足も 出なかった。連撃に耐えかねて引き下がるか、一か八かで反撃を試みようとしたならば今頃はバラバラにされて いただろう。 ともあれ、危機は脱した。問題は止むを得ない状況だったとはいえ相手を破壊してしまったことだが…… ――バシュッ! 息を整えながらそう考えていた刹那、煙幕の中から何かが飛び出した。完全に不意を突かれたデスティニーは まともに反応することもできずに、左腕に食らいつかれた。 「なっ……!?」 激痛に顔をしかめながら噛みついたそれに目を向ける。 大型のハサミ状の物体。視線でワイヤーを追うと、煙の中から突き出された左腕にマウントした盾に繋がって いた。 「そんなっ!?」 「――ふ、ふふふ、ふはははははははは! さすがに死ぬかと思ったぞ? ビームシールドの展開が間に合わな かったらどうなっていたことやら!」 風が煙を散らしていく。その中から、凶暴な笑みを浮かべたジャスティスが現れた。 ……油断。デスティニーは己が見たことのない武器が出てくるという可能性を完全に失念していた。 「その腕は認めよう、正直これほどとは思わなかった……だがそれもここまでだ!」 「っ!?」 グン! と身体が引っ張られる。シザーアンカーに繋がれたデスティニーの意思に反して∞ジャスティスとの 距離は凄まじい速さで縮んでいく。 苦痛で歪む視界の中で、デスティニーはジャスティスの脚にビームの刃が宿るのを見た。 「必殺のッ! ジャスティスキィィィィィィィィィィィィィィィィィィック!!」 ――弧を描く光の軌跡。それはいつか見た、敗北の煌めき。 それを思い出したからか、デスティニーは無意識の内に自身に食い込んだアンカーのワイヤーを手に巻き付け、 ありったけの力を込めて引っ張り返した。 「なっ――――!?」 すでに蹴りの動作に入っていたジャスティスがその急激にかかった力に抗えるはずもなかった。体勢は大きく 崩れ、ビームブレイドはデスティニーの肩をわずかに削るのみに止まった。 デスティニーは用済みになったワイヤーを右手のフラッシュエッジで切断し、返す刃でジャスティスを斬りつける。 しかし流石と言うべきか、ジャスティスは崩れた姿勢でありながらも左脚のビームブレイドでその斬撃を防ぎ、 それどころか右脚でデスティニーの頭上から再度蹴りを叩き込んだ。それを察したデスティニーもビームシール ドを発生させてなんとか防いだのだが、同時に双方ともにこれ以上の攻撃は無理だと判断して再び大きく距離を 開けることとなった。 「はぁっ、はぁっ……!」 左腕に食い込んだままのハサミを光の血が溢れ出るのも構わず剥ぎ取り、放り捨てる。 わずか数秒程度の攻防、しかし刹那の隙で落とされかねなかった状況にデスティニーの呼吸は大きく乱れていた。 だが疲弊しているのはジャスティスも同じらしく、息を切らしながら睨みを利かせていた。 「――はっ、ハハッ! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」 だが突然、ジャスティスは声を上げて笑い始める。その瞳に爛々とした輝きを宿しながら、異様な笑みを顔に 貼り付けていた。 「……何が、そんなにおかしいんですか」 「おかしい? 違うな、嬉しくてたまらんのだ! 貴様も似たようなものだろう!?」 何をバカな。そう言いかけて、デスティニーはゾッとした。 ……確かに、ある。 刃と刃がぶつかり合う刹那の煌めき。相手に照準を合わせ引き金を引く瞬間の手応え。相手の攻撃を避け、 あるいは防いだ直後の安堵。 ――それらすべてに、言い表わすことのできない悦びを感じている自分がいたことに気付いた。 いつからだった? そう考えても答えは出ない。 だがしかし、黒いデスティニーと戦ったときは一時とはいえシンのことを忘れて戦いに没頭したことはあった。 ――私は、戦いを愉しんでる……? 頭の芯に鈍い痛みが生まれる。視界が揺れ始め、思考が絡まった糸のようにまとまらなくなる。 もしそれが本当なら、 自分は、 平穏を願う彼の傍にいる資格があるのか――? 「……だが、どうも水を差しているヤツがいるようだ」 そう呟くとジャスティスは眉を不快そうに歪めながら視線を下に向け、地上に向かって急降下を始める。 我に返ったデスティニーは慌ててジャスティスが向かう先に目を向ける。 そこには、 「――マスターっ!?」 ――突然、ジャスティスがこちらに向かってきた。 激しい攻防の末に反応が鈍っていたのか、デスティニーはわずかに遅れてその後を追い始める。 何故そんなことを? そう考えている内にその小さな少女の姿がはっきりと見えるようになる。 その表情は怒りに染まっており、突き刺さりそうな視線がまっすぐにシンのいるところへと伸びていた。 ――まさか、狙いは俺か!? 周囲の人々が逃げ始める中、シンはその場に止まりナイフを引き抜く。どうせ人の足でMSの追撃から逃れら れるはずもない。下手に逃げれば被害も拡大しかねない。 しかし、とシンはナイフを握る手に嫌な汗が浮かぶのを感じた。 先ほど目の当たりにしたジャスティスの戦い、対魔法の処理が施されているとはいえあの剣捌きをこの小さな 刃だけで防ぎきる自信は毛先ほども沸いてこない。 だが、それ以外に取れる手段もまた一向に浮かんでこないのだ。 「くっ……!」 だがやるしかない。デスティニーも被害を広げないために空で戦ったのだ。それを自分が台無しにしてしまう ことなど絶対にしてはならない。 迫り来る影に対してシンはナイフを構える。すでに10mもない距離でジャスティスは身体を捻った。 蹴りが来る。そう判断してシンは身を固くする。 間合いに入り、シンはナイフを振り上げた。 そして、 「――いつまでそこで震えてるつもりだ部下1号ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」 「きゃあああああああああああああああ!!」 足元でうずくまっていたセイバーに、ジャスティスは突っ込んできた勢いをそのまま乗せた実に重そうで痛そ うな蹴りを放っていた。 「…………」 空に掲げた腕をそのままに、シンは視線を下げる。蹴っ飛ばされたセイバーはさらにジャスティスからストン ピングを食らっていた。まだ蹴り足りないらしい。 「貴様はッ! 私が全力を尽くして戦っているというのにッ! そこのシ、シ……そこの男を野放しにしたままうずくまっているのだッ!?」 「だ、だって……」 「だっても取っ手もあるかッ! 震えてるだけなら子犬にだってできるわこの犬以下めッ!」 罵倒と蹴りを続ける∞ジャスティスと、それを一身受けて泣きながら何かを言おうとするセイバー。 いつの間にか蚊帳の外に追い出されたような複雑な気分に――ついでに未だ名前を覚えられていないという ことに――、シンはげっそりと戦意を削がれていた。 「……あの~、マスター? 何がどうなってるですか?」 「俺に聞くな……」 全身を脱力させた状態で飛んできたデスティニーに頭を抱えながら返事を返す。先ほどまでの緊張感がまるで 気のせいでしたとでも言わんばかりに霧散していた。 「大体貴様は何をそんなに怯えているというのだ!? そんなにあの男が怖いか!?」 すっかり忘れられていたと思っていたところで急に指を突き付けられた。頭を抱えていたセイバーはおそるお そる顔を上げるが、シンと目が合った瞬間息を呑んでまた顔を伏せてしまう。 「だって……あんなに鋭い目でこっちを見てくるし、近寄るなって言ってるみたいなオーラが出てるし、さっき 話しかけられたときもなんか威圧するみたいな口調だったし」 シンは無言でデスティニーの方を見る。視線に気付いたデスティニーはそれを避けるように顔を背けた。 「その程度のことで何故そこまで恐れる必要がある! 確かにあの目は並の犯罪者ですらかくやというレベル で全身から滲み出る雰囲気は眠っている小動物すら跳ね上がって逃げ出してしまいかねないものがある! だが我々は自警団だろう!? そんな相手に臆するようでは話にもならん!」 シンはもう一度無言でデスティニーを見る。すでに顔はこちらに向いていなかった。 「あうう~、でも……」 「デモもストライキもない! 怖いと思うのならばそもそもその発想を真逆にすればいいだろう!」 「どうやって?」という問いかけに、再び∞ジャスティスはシンに指を突き付ける。 「あの紅い目! 生っ白い肌! 妙に大げさなリアクションから感じ取れる気の弱さ!」 おい待てコラ、とシンが突っ込むよりも速く、ジャスティスは目をカっと見開いて叫んだ。 「――あれはウサギだッ!!」 ……一陣の、風が吹いた。 「ウサ、ギ……?」 「そうだ! ウサギだ!」 「ウサギ……」と呟きながら、セイバーの顔がゆっくりとシンへと向けられる。怯えの抜け落ちた無垢な瞳に シンが戸惑っていると、セイバーの頬にほんのりと朱が差した。 「そう言われてみると……かわいいかも」 「そんなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 今の今まで散々言われてきたことも含めてありったけの怒気を込めてシンは叫ぶ。その声に飛び上がるように 震え上がったセイバーはまた頭を抱えうずくまった。 「や、やっぱり無理ですぅ~~~!」 「えぇい、ようやく立ち直れたと思ったらこれか! もういい! 部下1号、戦わないというのなら仕方あるま い! その代わり貴様を『ジャスティスキック27号~舞え! あの星空の彼方へ~』の実験台にする!」 「えぇ!? そんなぁ!」 「それが嫌なら戦えぃ! 貴様の心の弱さを克服してみせろ!」 あうあうと呻きながらセイバーはジャスティスとシンの顔を交互に見やって俯く。しばらく身体を震わせてい たが、やがてゆっくりとではあるが立ち上がった。そして、 「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」 泣き叫びながら、セイバーは背中の羽を広げてシンに向かって突っ込んでいった。 前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ
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悠久幻想曲 2nd Album 【ゆうきゅうげんそうきょくせかんどあるばむ】 ジャンル アドベンチャー 対応機種 セガサターンプレイステーション 発売元 メディアワークス 開発元 スターライトマリー 発売日 【SS】1998年2月26日【PS】1998年3月26日 展開 5,800円 判定 良作 悠久幻想曲シリーズリンク 概要 ストーリー システム 評価点 賛否両論点 問題点 総評 その後の展開 余談 概要 悠久幻想曲シリーズの第二弾。さらに遊びやすくなっている。 ストーリー 自警団の第三部隊は住民の苦情処理を請け負う部隊である。しかし人望のある前隊長の死や任務の有料化により住民からの感情は悪化し、さらに無料で同じ仕事を引き受ける公安維持局ができてしまい依頼は激減。やる気をなくした仲間は辞めたり他の部隊に移っていく。そんな中でもただ一人残り奮闘していた主人公は部隊の継続を団長に直訴した。有料になったからこそ、無料の公安維持局の評判が良くないからこそ自分達にできることがあるはずだと。結果として存続は認められた。ただし一年間の猶予という形で。その間の様子を見て必要と判断されれば部隊は存続、認められなければ解散。さらに団員は自分で探さなければならず、収入の一部は自警団に納めなければならないという条件付きだった。 厳しいが他に道はない。主人公は条件をのむことにした。まずは仲間集めからだ。 舞台となるのは同じくエンフィールド。魔法ありきのファンタジーな世界観は健在。 今作は自警団という半民間組織が中心となる。実質的には前作と同じ何でも屋であるが。 今作もメインキャラは10人いる。 うち5人が前作でサブキャラクターとして登場しており、5人が新キャラクターとなる。 前作のメインキャラ10人はサブキャラとなって登場する。ただしシーラは留学している為オープニングととあるエンディングにしか出てこない。 ちなみに声は無い。 時系列は曖昧である。 メインストーリーでは何者かが禁忌の実験に手を染めていた形跡がみつかったりエンフィールドに隠れていた裏の組織が顔をのぞかせるなど血なまぐさい話が絡んでくる。 システム 基本は仲間を選んで仕事に就かせその成果を見ていき日時によって発生するイベントをこなすことになる。 まず仲の良い友人10人から3人を選び第三部隊の仕事を手伝ってもらうよう頼みに行く。以後はこの3人と一年間を共に過ごすことになる。 友人の半分は司書や保母といった何らかの社会的役割を担っていたり学生だったりするためその場合は掛け持ちをしてもらうことになる。 ちなみに他半分は 社会的地位がないか12~13歳の少年少女 である。 何故か主人公の性別は 不明 となっている。もっとも女の「お兄ちゃん」はいないだろうが。 選択できる依頼がいくつか提示されているので一人ないし複数をその仕事に割り振ると各キャラは一週間その仕事に就くことになる(仕事に就かせず休ませることも可能)。一日ごとの仕事の成果(=達成度)が累積されていき週末になった時点の値で仕事に対する評価が決まり報酬も増減する。この際報酬の数割は自警団に納めることになる。 成果は能力による得手不得手により左右されるがランダム要素もある為ロードしてやり直してもよい。 苦手な仕事に就かせたり仲が悪いキャラだけで組ませた場合は失敗しやすく能力も伸びず仲も悪化しやすい。そこで自信をつけさせたり能力を伸ばせるよう適切な仕事に就かせ成長させる必要が出てくる。 仲間が仕事をしない日もある。やる気の低い状態で発生しやすく攻略本でははっきりとサボリと書かれている。ちなみに本業が理由で休むことはない。 体力や感情といった仲間のパラメータがひどく悪化したら休日にフォローする必要も出てくる。 祝祭日による休日は存在しない。 月末には給与の支払いが発生する。デフォルトでは成果により自動で算出される額が表示されているが、これに色を付けることで仲間のやる気がアップする。逆に減らすことも可能だがその場合は仲間の感情が悪くなる。また、資金繰りを誤った場合は当然払える額も妥当な額より減るため仲間は怒る。 仕事の中には双六も存在し、公安維持局と、場合によっては金に汚い行商人も交えて競争になりこれに勝利することが任務の成功になる。このイベントでは双六の勝敗のみが成果を左右する。 ルーレットは直前の盤を引き継いでパワーメーターを加減して回す。明確な基準点はないが慣れれば感覚に頼った目押しが可能になる。 チームが重なると戦闘になる。負けた方は一回休みになり手持ちのゴールドもいくらか盗られる。 メインイベントは決まった日に発生する。仲間キャラのイベントは決まった日時に発生するテーマイベントとトラブルイベントと誕生日、決まった月の休日に遊びにいくと発生する休日イベント、決まった日に仕事に就かせると発生する任務イベントがある。重複により発生しないということはない。 仲間となるキャラはそれぞれある種の問題を抱えており、3段階のテーマイベントを通じて彼らを理解していく。最初のテーマイベントではその人となりに触れ、二段階目では特有の問題が事件と共に示され、三段階目では二段階目を踏まえた事件が起きる。三段階目のイベントは2つ用意されており二段階目の選択肢によりどちらに行くかが決まる。三段階目が終了した時点ではひとまず落ち着くものの根本的な解決にまではいたらない。 休日は休んだり仲間の所に遊びに行ったり有料で訓練をして能力を伸ばしたりできる。ただし仲間の感情パラメータの悪化が大きくなりすぎるとそちらを解決するための会話が最優先となりイベントも発生しなくなる。 仲間の特徴的な情報もコンプリート対象でありテキストパートでそれが確認されると埋まっていく。例) 納豆が嫌い、怪力である、血が苦手。 仲間との信頼度は俗に言う好感度である。会話の選択肢や仕事を組むことで上昇していく。絆とは積み重ねた日々に信頼度がいくつあったかという総合ポイントである。絆が高いキャラがいるとそのうち一番高いキャラとのEDになる。 キャラEDの対象となる仲間がいた場合、そのキャラの抱える問題を解決するイベントが起こる→メインシナリオのラスト→EDムービー→キャラEDを迎えない仲間の後日談→EDを迎えたキャラとの後日談となる。 サブキャラクターであるクレアとのEDもある。なお今作ではライバルキャラクターのEDはない。 仲間全員との絆が低いとヘキサとのキャラEDになる。 キャラEDを迎えない仲間の後日談は3種類ありその時のステータスによって変わる。そのうちの一つには専用のCGがある。 評価点 前作に続き友情をテーマにした作風 全体的にゆったりとした雰囲気で各キャラや町の住民が抱えた問題を解決していく、ある種王道的なシナリオの雰囲気はそのまま引き継がれている。 ギャルゲーとして分類されることも多いが、恋愛要素よりも友情要素重視なのも相変わらず。それもあり男主人公で攻略キャラに男性キャラもいるが、BL的要素はない。 豊富なテキスト量。 選択肢の多さと合わせて変化が広い。 仲間にしたキャラ次第で台詞が追加される。 ほぼシームレスな読み込みとスキップ。 テキストに限らず仕事、移動、戦闘時の音声やアニメといったあらゆる演出がスキップできる。 セーブデータのロードもセーブも速い。 多くのテキストゲームではスキップする際にもそこに挿入されるべきキャラの絵が逐一表示されるが、このゲームでスキップするとテキストだけが流れていくため非常に速い。 このシステムを持っているゲームは今でも少ない。他にも『メモリーズオフ』が似たようなスキップ機能を持っている。 やり込み要素を持ったキャラメイキング。 普通に進めていけば仲間は戦闘では主人公をサポートする二軍にしかなれない。有料の訓練で補ってやっても基礎能力に欠けるためたいして伸びない。しかし成長に係わるシステムを理解し適切な属性に導いてやることで強みを持った万能選手という一級品に育てることができる。 音楽。 各キャラごとにテーマ曲が作られており、キャラの雰囲気作りに一役買っている。 繰り返しプレイに向いた作り 仲間キャラを変えたり、育成を変えたり、各種選択肢をどう選ぶか等、繰り返し遊んでも楽しめる要素が多い。 一周にかかる時間も短めで、色々試行錯誤もしやすい。 容量を食わないセーブデータ PS版では1ブロックに3つセーブできる。さらに1ブロックを食うシステムデータの空きにも1つセーブできる。 ギャラリーモードにはCGやイベントのコンプリート履歴、BGMの鑑賞、ボイスメッセージもある。 賛否両論点 テキストが少しおとなしくなった 前作のテキストパートはかなり"はっちゃけている"場面が多かったのだが、今作では全くない。 相変わらずだがmoo氏の絵は人を選ぶ。 下手と感じる人も多いが、この絵柄だからこそ悠久に合っていると感じるファンも多い。 問題点 グラフィック面の問題点 前作メインキャラは立ち絵が一種類しか無い。 本作ではサブキャラなので仕方ないとも言えるが、やはり少々寂しい。 CG(1枚絵)の枚数が少なめ。 各キャラ終盤にならないと1枚絵のあるイベントがない。 モブの絵が雑 メインイベントのベストエンド条件がかなり難しい。 各種メインイベントでかなりの数の選択肢を間違えずに選ばないといけない。 キャラクター個別EDには影響しないが、方々で張られた伏線や謎の解き明かしが行われる為、一度も見る事が出来ないと謎が放置されて不完全燃焼のままになってしまう。 メディアワークス発行の公式攻略本の記載も間違っていた為、こういう終わり方なのだと勘違いしてしまったプレイヤーも多い。 キャラエンドの条件となる絆の累積やそれによるフラグ成立が目で確認できず、ゲーム中にこれらを調整するのが困難になっている。 サブキャラクターであるクレアとのEDを迎える為には、特定の仲間の絆の累積が一定値以上一定値以下という特定の範囲内が条件となっており調整が難しい。 前作は絆の累積に加え特定のイベントの成否も条件に入っていたため全キャラの絆を累積してプレイしてもイベントで調整できたので同時攻略も容易だったが、今作のキャラEDは絆の累積のみで判定されるので同時攻略が困難になった。 このため特定のキャラEDを見たい時は必然的にゲーム開始時から特定キャラだけ集中的に絆を累積するプレイになってしまう。 オープニングの絵の動きがカクカクしている。 初見ではハードの不調を疑った人間も多い事だろう。走るシーンで特に目立つ。 戦闘に関するパラメータが多いにもかかわらず、進め方によっては一度も戦闘せずにクリアできてしまう。 総評 ユーザーライクなシステム、それと融和したやり込み要素もあるアドベンチャーパート、萌えに傾倒しすぎない友情寄りでコミカルなテキストを併せ持っているゲーム。 前作の良さはそのままに遊びやすくした理想的な続編と言える。 その後の展開 シリーズはファンディスクも含め本作以降も続いていった。 ファンディスクで本作の舞台の外伝的な話が展開された。 本作で育てた仲間を使う事もできる。 ナンバリングの続編である『3』は舞台を移し、関係性はほぼなくなった。 各キャラのテーマ曲に担当声優による歌を付けたCDが発売された。 余談 SS版とPS版ではOPとEDと一部シナリオがまるごと異なっている。 片方の機種でしか発生しないイベントもあるがシステムデータのコンプリートには影響しないようになっている。 CDドラマでは前作メインキャラも登場しちゃんと声がついている。 セリーヌは間延びした話し方をするため声の収録には通常の2倍かかったそうである。 PS版OPテーマの「永遠の親友」は後に人気声優となる田中理恵氏のデビュー作でもある。 更なる余談だが、田中氏は当時青二塾生であり、「声優としてのデビュー作」は本作CDドラマのモブキャラであった。
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前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ 「……で、そんな騒ぎ起こしときながらわざわざ準備中のウチに飛び込んできたわけか、このクソお客様は」 「ヘイそこの赤いの、酒くれ酒。米酒を熱燗で」 「ッざけんなこのアホ! だいたい金持ってんのかテメエは!」 「うっさいな、さっさと運んでくれ。でないと乳揉むぞ」 「どんな脅しだよそれは!?」 「ひぅっ!?」 「なんでお前がビビってるんだデス子!?」 ――そんなやりとりを眺めながら、シンはそっと窓の外を見やる。 未だ自警団が何人か見回りをしているようだが、先ほどインパルスらが聞き込みに来た団員をなんとか誤魔化 したおかげで踏み込んでくることはないようだった。 勝手に店に入ってきたストライクフリーダムだけでも引き渡した方がいいのでは、と言われたが、シンには 彼女の話を聞かなければならないという予感もあり、その提案を断った。 「まったく、厄介事に巻き込んでくれたな元マスター?」 「……悪い」 「だ、大丈夫ですよ。今はオーナーさんもパティさんもいませんし」 それが唯一の救いだった。どちらか、というよりもパティがいれば間違いなくこのテーブルに着く前に店から 叩き出されていたことだろう。 「まぁいい、今さら何を言ったところで状況は変わらん。熱燗だったな? すぐに用意しよう」 「おぉ~、緑のは話がわかるじゃんか」 「ただし値段は通常の5倍だ」 「鬼! 悪魔! 人でなし!」 「クックックッ、最高の褒め言葉だ」 「ぶ、ブラストちゃん……あ、元マスターも手伝ってくれませんか? 人手が足りないので」 「あぁ」 ブラストの目配せの意味を察してシンは席を立つ。デスティニーから何やら訴える視線を感じたが、すぐ戻る と告げてインパルスに続き厨房へと向かった。 「しっかし、今度はアイツかよ。なんか変な呪いでもかけられてんじゃないのか元マスターは」 「そう言うなソード。元マスターのトラブル体質は今に始まった話ではない」 「そ、そんなことは……あるかもしれないけど」 「お前ら俺のことそんな風に思ってたのか……?」 燗の用意を進めるインパルスと並んで、シンは若干凹みながらまかない程度ではあるが即興で米酒に合うつま みを作る。 ここで働いた経験から大体の物は作れるようになったシンだが、ここに来た本当の理由はそれだけではない。 「それで、奴はどうするつもりなのだ?」 「……とりあえずは向こうの話を聞く。どうするかはそれからだ」 「甘いんじゃねぇの? アタシらとデス子がいりゃフリーダムだろうが一人なら……」 「でも、絶対に勝てるっていうのは言い切れないと思う」 フォースの意見にシンは頷く。先ほどの戦いを見る限り、二人がかりで仕掛けたとしてもせいぜい互角がいい ところだ。現状ではフリーダムの時のように勝てる要素がまるで見つからない。そもそもの目的すら不明ではど う対策を取ることもできないのだ。 だからこそ、相手が話し合いの姿勢を見せている今は下手に手出しをせず応じるべき、とシンは考えていた。 「……もどかしいな、アタシとしちゃとっとと叩っ斬りたいとこなんだけどよ」 「ソード」 「わぁってるよ。元マスターの手前、勝手な行動は慎むさ」 「ならばいい……さて、これ以上遅れると怪しまれるかもしれん。そろそろ行くか」 「あぁ」 徳利と猪口、そしてつまみをそれぞれ持ち、シンとインパルスは厨房から出る。 たとえ相手が穏健を装っていても、それで油断しないよう気を保ちながら…… 「二人っきりになったってことはさっきの続きをしていいってことだな! ってことでおっπ! おっπ!」 「いやぁぁぁぁぁぁ! 助けておねえちゃぁぁぁん! マスタぁぁぁぁ!」 「「何してんだお前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」 再びデスティニーを剥きにかかるストライクフリーダムに、ソードインパルスのフラッシュエッジとシンの 投げナイフが飛んでいった。 「ついムラッときたのでやった。今は反省している」 「今度アタシらの妹に手を出したらなます斬りにするぞこの万年酔っ払い」 「失礼な、そんな下劣なものじゃないぞ私は。ただのおっπ紳士だ。紳士の魂以外どこも他の連中と変わらん」 「その魂が爛れまくってるって言ってんだよ!」 「っていうか、紳士じゃなくて淑女じゃないのか……?」 激昂するソードをもはや止める気も削がれ、シンはさっさと本題に入ることにする。 「それで、お前の話ってのはなんなんだ? デス子とインパルスもいるし今がちょうどいいだろ」 「はな、し……?」 「…………」 「あいそうでした! 私が話があるって言ったんでした! すばらしいおっπと旨いお酒で忘れててすいません!」 無言で腰のナイフに手をかけるシンを見て慌てて姿勢を正すストライクフリーダムだったが、やはりどこか 芝居くさいように見える。インパルスに軽く視線を送り、シンはナイフから手を離して椅子に座り直す。 「で? さっさと話してくれないか?」 「超簡潔に話すなら、私らは君らと敵対する気はないんで手を出さないでくれってこってす、まぁさっきみたい に仕掛けられたときは当然反撃もするけど」 「私『ら』? お前以外にもいるのか?」 「あぁ、こないだマイシスタを拾ったんだよ。今はゆ、ゆ……? 名前忘れた、狐のねーちゃんのとこに一緒に 厄介になってる。街であんたらと戦ったことは聞いてるけど、ちゃんと私が躾といたんで安心してくれい」 そう言って猪口を傾け、「うンめー!」と唸った。告げられた言葉を頭の中で反芻しながら、シンは考えを 張り巡らす。 ――狐の、ってことは由羅のとこにいるのか。予想してたものの中じゃ一応一番マシなものだったけど…… 「その言葉、どこまで信用できるかわかったものではないな」 「ありゃ、素直に受け取れないと?」 「当たり前だ。この世界に来る前の我々の関係を考えれば信じられるわけがない」 射抜くように言葉と視線を叩きつけるブラストに、ストライクフリーダムは変わらず受け流すようにヘラヘラ と笑う。 シンの考えもブラストと同じだった。こうして言葉では都合のいいことを並べ、腹の内に抱えた黒いものを 隠していないと言い切れるだけの根拠もない。むしろ何かを隠していて当然だろうと踏んでいた。 だがしかし、そんな疑いの眼差しを受けてなおストライクフリーダムは笑みを崩さない。 「別にそっちがそう考えてるならそれでも構わんよ? こっちはもう宣言はしたんだ、気にせず過ごすさ。それ で君らが仕掛けてくるって言うんならさっきも言ったとおり相手にはなるけどな、あくまで正当防衛で。もっと もそんなのは無駄の極みだろうからお互い得にはならんだろうけど」 ブラストは黙り込んだ。シンもまた同様に。 今のところ、言っていることに怪しいところは何も見当たらない。真っ当とは言い難いかもしれないが、少な くとも正論ではある。 「あぁ、別に普通によろしくする程度なら大歓迎だぞ? こっちとしてももっとヨロシクしたいくらいだし」 そう言ってネットリとした視線をデスティニーに向ける。もはや天敵と化した相手のハンターな視線にすっか り怯えきったデスティニーはガタガタと震えながらシンの背中に隠れた。 溜息をひとつついて、シンは改めてストライクフリーダムを見据える。 「……こっちと戦う気がないならいいさ。それでえっと、S・Fでいいか?」 「おっ、ようやく名前を呼んでくれたか。嬉しいねぇ」 先ほどまで浮かべられていたものとは違う、あどけない笑顔にシンはわずかながら動揺する。 「『すごい』『Fカップ』と同じ略だな!」 「…………」 が、すぐにそんな気持ちは萎えた。 「『すンばらすぃ~』『Fカップ』も同じだな!」 「それはもういい……それでこっちも聞きたいことがあるんだけど」 「私の3サイズ? ゴメンそれは国家機密」 「知るかンなこと!」 「きょぬー派はひんぬー派かってことなら……一週間ほど考える時間がほしいかも」 「それもどうでもいい!」 「さっきからツッコミばかりだねシン坊は。ふざけずにさっさと話をしてほしいんだけど」 「お前がさっきから脱線させまくってるんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「お、落ち着いてください元マスター!」 あ~やだやだと肩をすくめるストライクフリーダムに本気で殴ろうとしたシンだったが、寸でのところで フォースに止められてなんとか頭をクールダウンさせる。 「……本題だけど、他にお前たちみたいな奴って見たことはあるか?」 「んー? あるぞ。ザクとかダガーとか」 「本当か!?」 「あぁ。みんなどてっ腹に風穴開けてやったけど」 ――数秒間、卓の回りの空気が凍りついた。 「…………何?」 「いやぁ、あれは参った参った。何せ……」 薄ら笑いを浮かべながら再び酒を飲もうとするストライクフリーダムだったが、向かい側から二挺のビーム ライフルを向けられて眉根を寄せつつその動きを止める。 「おいおい、さっきの話聞いてたかい?」 「黙れ! 本性現しやがったなテメェ!」 猛るソードと怯えの色を消し険しい表情を浮かべるデスティニーを止めるべきかと考えかけたシンだったが、 さすがに今の一言をただ聞き逃すわけにはいかない。 「……今のはどういう意味なんだ?」 「どういう意味も何もそのままだけど」 「先ほどの戦いたくないという言葉、さらに信用できなくなったな。貴様の狙いを含めてこの場で洗いざらい 吐いてもらおうか」 「さっきは不覚を取りましたけど、今度はやられないです!」 二人分の本気の敵意を受けながら、ストライクフリーダムは呆れたように息を吐いて猪口を置き、名残惜し そうにテーブルの縁を指でなぞる。 「喧嘩っ早い連中だこと。保護者の苦労が知れるってもんだね、なぁ?」 「口の減らねぇ奴だな」 溜まりに溜まった怒りが臨界点を突破したのか、ソードはまるで遠慮のない殺意を向けて銃口を直接ストライ クフリーダムの頭に突き付ける。 「さすが姉妹、熱くなりやすいとこもそっくりだ」 笑顔を依然そのまま、しかし口元に浮かんだ歪みは一層深くなる。 「――ま、だから対処も楽なんだけど」 そう呟くや否や這わせていた指がテーブルの縁を掴み、一気に跳ね上げる。 ひっくり返されるテーブル。散乱する料理と皿。 シンとデスティニーはなんとかその場を飛び退くことができたが、一人身を乗り出していたインパルスは逃げ 遅れてテーブルの下敷きになった。 「こ、のぉ! どこだぁっ!」 上に乗ったテーブルを跳ねのけ、ソードは左右を見渡すが……ストライクフリーダムは見当たらない。 だがその位置を、ほどなくして彼女は知ることとなった。 「呼ばれて飛び出てなんとやらー」 「ッ!?」 後頭部に硬い感触。それがビームライフルのものであると察知してソードはその場に固まった。 「形勢逆転、ってやつかなこれは」 距離を取ったが故に容易に手出しができなくなったシンとデスティニーに目を向け、少女は不敵に笑った。 前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ
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前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ 「――スター、マスター。起きてくださいよぅ」 「む、ぅ」 身体を揺さぶられる感覚に意識がゆっくり覚醒していく。一度寝てしまうと気にならない節々の痛みが目覚めと共に蘇る。古ぼけたベッドの立てるギシギシという耳障りな音に顔をしかめながらシンは上体を 起こした。 「マスター起きるの遅いのですよ! それと朝はもっとシャキーンとしてくださいシャキーンと!」 「……お前か」 シンは目元をこすりながら眼を下に向ける。ベッドに腰をかけてなお視線を下げねばならない小柄な少 女がそこにいた。 金髪碧眼の整った顔立ち、水着の思わせるアンダーウェアやニーソックスの上に青や白の鎧のような分 厚いプロテクターに身を包んでいる。さらに背中には大きな赤い羽根まで付いている。見た目だけで言え ば十代半ばといったところだが、背丈はシンの腰より少し上までしかなく、少女というよりも人形のよう な印象の風貌だった。 「む~、私は『お前』じゃないです! ちゃんとデスティニーっていう名前が……」 はいはい、と生返事をしながらシンはベッドから立ち上がる。窓に眼を向けて陽の高さから大体の時間 を計り、寝巻きを脱ぎ捨てて着替え始める。 「ん? どうしたんだお前」 シンが着替え終わって振り返ると、デスティニーは正座したまま後ろを向いていた。 「ききききっきき着替えるときには前もって言ってもらわないと困るというかなんというかそのいろいろ 驚いて反応できないというか……」 ごにょごにょと言葉を重ねていくごとに声量が尻すぼみになっていく。相変わらず変な奴だ、と思いな がら下の階に続く梯子を降りていく。 「いくら元が元でも一応これでも精神構造は女の子なので男の人のは、はだ、裸を直視するのはさすがに 気恥ずかしいかなーっていうかそもそもそれはひょっとして今夜はおkなサインなのか私単なるエアーな 扱いなのか非常に判断に困るんでそこの説明をお願いしたいなーなんて……いえ別にマスターがお望みと あらばこの身この心この命、全身全霊をもってお尽くしするつもりなのですがいえ別に違うんですよ? そう命じて欲しいなんてそんな厚かましいこと願える身分じゃないのは分かってますしでもでもそれでも 少しは振り向いてほしいなーっていつの間にマスターが消失な事態に!? マスター!? どこにいるん ですかマスt」 バタン、と梯子と一緒に屋根裏の入り口である扉を閉める。 「……行くか」 未だぼんやりとした目を擦りながらシンは居間へと移動した。 「あ、シンさん。おはようっス!」 ん、と微妙に返事になっていない返事を返しつつシンは食卓の席に座る。 「昨日はずいぶん遅くまで帰ってこなかったっスけど、ちゃんと疲れ取れてるっスか?」 食卓の上に立った犬のような生き物がシンを気遣うように語りかけていた。 亜麻色の毛並みに蒼い瞳、同じく蒼いスカーフを首に巻いて両手に大きな白いグローブをつけた姿はい かにもマスコットなイメージが強く、その手のものが好きな人間なら思わず抱きついてしまいたくなるよ うな愛嬌があった。 まぁ当の声をかけられたシンはそんな趣味はなく――そもそも相手はファンシーな外見をしたオスであ る――、あくまで気だるげに言葉を返すだけであったが。 「ボチボチって感じだ……悪いテディ、コーヒーくれ」 「うぃっス」 とてとてと食卓を走り回るテディの姿を見やってからシンは窓の外に目線を移す。 (青い空に白い雲、どこの世界だろうと空は空なんだな) そんなノスタルジックな考えにシンは小さく笑みを浮かべ、しかしその空の下に広がる街並みを見て軽 く落胆する。 ――エンフィールド、緑と青の自然色に囲まれた白亜の建物が建ち並ぶ街。 北に森、南に湖、東西を山で囲まれた中規模の自治都市である。 ガス灯が夜道を照らし、各家庭には水道が通っており、移動手段が馬車や船が主であったりと『シンの 知る世界』とはかなり技術に格差がある。だがその反面一部とはいえ電算機が実用化されているなど妙に 技術が発達しているところも存在する。 シン・アスカがこの世界にやってきたのは一ヶ月ほど前の話だ。シン自身は前後の記憶が曖昧ではある のだが、どうも月面での決戦の折に何かの拍子でここに飛ばされたらしいということが分かった。何が原 因なのかは記憶が頼りにならないので皆目見当もつかないのだが、分かることはいつ元の世界に戻れるか が分からない以上しばらくここで暮らすしかないということだった。行く当てもなく彷徨い、行き倒れて いたところを何でも屋『ジョートショップ』の店長に拾われて衣食住まで世話になっている。もちろんそ の恩義に甘えるだけでは申し訳ないと考え、今ではこの店の臨時店員となってこの街で暮らしている。 そんな中で、シンの常識とは大きく掛け離れた技術がここでは当たり前のようにあった。 『魔法』、そんな荒唐無稽なものがこの世界ではかなりの割合で生活に密着した存在として普遍的に存在 している。具体的に上げれば物理エネルギーを操作するもの、霊的な働きを司るもの、自身ではなく外部 の『精霊』の力を使うもの、物質組成の組み換えを行えるもの、この四つが現代魔法と総称されている。 ちなみに今し方キッチンまでコーヒーを入れに行った不思議生物テディも魔法生物である。 中には古代魔法という今も研究が行われているものも存在するのだが…… 「マァスタァァァァァァァァァァァァ!!」 ギュンッ! と窓から大声を上げて赤い羽根の生えた少女が飛び込んできた。 「あれ? お前何でそんなとこから入ってきてるんだ?」 「何で!? 何でって聞きますか!? 私を置いて屋根裏の入り口閉めたのはマスターですよ!?」 え? と声を上げてシンはついさっきの出来事を思い出す。デスティニーが起こしにきたことは覚えて いる。そして着替えて一階に降りた後、屋根裏の入り口を閉じた。 自分の記憶に間違いがないことを確かめて、シンは口を開く。 「お前一緒に降りてこなかったっけ?」 「わーい予想通りでも全然嬉しくない。降りてたら窓から窓に飛ぶなんてめんどくさい方法でここまで来 ません! それとちゃんと名前で呼んでくださいって何度も言ってるです!」 そんなこと言われてもな、とシンは胸中で呟く。 ……この少女、デスティニーはシンの世界で『ZGMF-X42S デスティニー』という名称のMSだった。この ような姿になったのは話が長くなるので詳細は割愛するが、『とある魔法バカが中途半端に発動させた古代 魔法の召還を経て何をどう間違ったのかこんな形で現われた』というのが原因である。 「名前で呼べって言うけどさ、俺の中じゃデスティニーっていうのはMSであってお前みたいなチンチクリ ンじゃないんだよ。考えてもみろ、例えば自分が乗ってた車とかバイクとかがある日突然スーパーデフォ ルメされて『私あなたの乗ってた乗り物なんです』とか言われても同じように見ることなんてできないだ ろ? よって俺はお前をデスティニーと呼ぶのに抵抗がある限りそう呼ぶことはできない」 「む~! だったら別の呼び方で呼んでください! 『お前』じゃ味気なさ過ぎます!」 ふむ、とタイミングよく運ばれてきたコーヒーを啜りながらシンは一考する。 「デスティニーさんおはようっス」 「テディちゃんも何とか言ってください!」 と何故かテディにまで飛び火して騒ぎ立てるデスティニーを眺めつつシンはペンを手に取る。辺りを見 渡して適当な紙を見つけ、それにサラサラとペンを走らせる。 「ま、マスター? ひょっとして真剣に考えてくれてるんですか!?」 「そんなとこだ。少し待ってろ」 シンの様子に気付いたデスティニーはそわそわしつつペンが止まるのを待っている。時折テディに 「私の名前考えてくれてるんですよ」と受かれながらペシペシと頭を叩いていた。 「……こんなとこか。よし、好きなの選べ」 待ってましたと言わんばかりにシンが突き出した紙の前に飛んでいき、 ――直後にすべての動きを止めた。 「この四つの中から選んでくれ」 ちなみに名前の候補は以下の通りである。 1.プラスパワー、ガッタ○ダー 2.完成、クライマ○クスフォーム 3.グレートマ○トガイン・パーフェクトモード 4.最凶合神! アルティメットグラヴ○オン 「……デスティニーさん」 心底気の毒そうな声音でテディが呼びかける。だが呼びかけられた当の本人は何の反応も見せずただ宙 に浮いたままだった。 「個人的には2か4がオススメなんだが」 とシンがフォロー――のつもりだった――すると、ピクリと指先が震える。 「マスターの……」 デスティニーの身体が震える。それが紛れもない憤怒の現われだということに気付いて、シンは慌てて 弁明しようとするが、 「マスターのバカァァァァァァァァァ!!」 何かを取り繕う前にゼロ距離ドロップキックがシンの顔面に突き刺さった。 「ぶぐはっ!? 痛ぇ! いきなり何すんだよ!?」 「何すんだはこっちの台詞です! 何ですか何ですか何なんですかこのパクリ全開な名前は!?」 「三回も繰り返すな! パッと頭に浮かんだもんを適当に書いただけだ!」 「酷いっ!? 真剣に考えてくれてたと思ったのに!」 ぎゃあぎゃあと言い争うシンとデスティニーを沈めようとテディは間に割って入ろうとするがそれは叶 わない。致命的な身長差とあまりの気迫に引き気味になってしまい二人に声が届かないのだ。 「――あらあら、朝から賑やかね」 怯えるテディの耳に救いの声が届いた。 今まで外で掃除をしていたのだろうか、手にホウキとちりとりを提げながらこの『ジョートショップ』の店長であるアリサ・アスティアはおっとりとした物腰で居間にやってきた。 「ご主人様! またシンさんたちが喧嘩してるっス!」 「大丈夫じゃないかしら。いつも通りの口喧嘩みたいだし」 涙目になりながら訴えるテディだったが、アリサは変わらず穏やかな表情でシンとデスティニーのこと を見つめている。だがその目の焦点はわずかながら揺れていた。 「こういう日常もいいものよ。私にはあまり見えないけれど、耳でこの雰囲気を楽しむことが出来るわ」 アリサは生まれつき目が悪い。さらに夫が亡くなってからは遺されたこの店から出ることはほとんどな かった。テディという献身的なパートナーがいるものの、その暮らしは変化の乏しい静かなものだった。 「ご主人様……」 そんなアリサをずっと傍で見てきたテディだからこそ、今のアリサが本当に嬉しいのだということが分 かった。 「あぁクソ面倒だ! もうデス子でいいな!? デス子にする! デス子に決めたぞたった今!!」 「なっ、そんな考えて三秒な名前が定着するですか!? 断固として抗議するです!」 「なめんな! 考えて1ミリ秒も経ってない……どわっ!? 危ないだろ目を狙うな目を!」 そんな一人と一匹のやり取りを気に留める余裕もなく、シンとデスティニーの争いはさらにヒートアッ プしていく。さすがにこれ以上の発展は危ういと思ったのか、アリサは苦笑しながら声をかける。 「おはよう、シンクンにデスティニーちゃん。朝食はいるかしら?」 「ぬぁっ、おはようございますアリサさん! いえ今日は外で済ましてきますっとおわっ! 何か必要な ものがあるなら買ってきますよっ!」 全弾顔面狙いのデスティニーの拳の弾幕をしのぎながらシンは言葉を返す。何気に躊躇なく目や人中な どの急所を狙うダーティーな戦い方だった。 「じゃあ帰り際に牛乳を買ってきてくれないかしら。たしかもうあと一本しかなかったはずだから」 「了、解っ! じゃあなデス子! 遅れたら朝飯は抜きだ!」 「あ、待ってくださいマスター! あ~さ~ご~は~ん~!」 弾丸のように店を飛び出していった二人を笑顔で見送り、アリサはテディの方を向く。 「それじゃあ私たちも朝食にしましょうか」 「ういっス!」 ……いつも通りのにぎやかな朝、エンフィールドの朝は平和だった。 前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ
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前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ <ソードインパルスの憂鬱~いつか来る日のために~:前編> ――昼のピークを過ぎ、ある程度落ち着きを見せ始めたさくら亭。その厨房でフォースインパルスは機嫌よく 鼻歌を口ずさみながらシチューをかき混ぜていた。 その頭には、三輪の花をモチーフにした真新しいヘアピンが付けられていた。 時折そっとその位置を確かめては堪え切れないように笑みを浮かべるフォースの様子に、ブラストが呆れた ような声を漏らす。 「まったく、ずいぶんと気に入っているようだな」 「えへへ……だって元マスターから買ってもらったものなんだもん」 一時間ほど前の話になる。ストックが切れたものを買出しに出たフォースは途中でシンと会い、夜鳴鳥雑貨店 まで付き合ってもらったのだ。そのときにふと目に着いたヘアピンを見ているのを気付かれ、そう高いものでは ないからと買ってくれたのだった。 そのとき、ブラストとソードは昼の多忙な時間を終えて仮眠をとっていたので気付いたときにはヘアピンを 付けて上機嫌になっていたフォースがいたのだった。 「私たちが寝ている間にそんなことがあったとは、不覚だったな。それにしてもヘアピンとは珍しいな?」 「きれいな花だったからちょっと気になって……でも買ってくれるなんて思わなかったなあ」 「少し前まで鉛筆をかじりながら飢えを凌いでいたわけだからな。まぁ、よかったなフォース」 「うん! 今日はいっぱいがんばろーっと!」 そう言いながらフォースは砂糖の大袋の開け、シチューの中になみなみと投入した。 「……フォース」 「え? って、あぁっ!?」 「浮かれすぎだ、まったく……?」 そのときになり、ようやくブラストは気付いた。 すでに起きているはずのソードが、先ほどから一言も喋っていないことに。 「どうしたソード? ツッコミ役がサボっていては私もボケ辛いのだが」 「……誰がツッコミ役だ誰が」 不機嫌さを隠そうともせず吐き捨てるようにつぶやくソードの様子に、ブラストは声に出さずフォースへと 語りかける。 (今日はいつにも増して不機嫌だが、心当たりはあるか?) (う、う~ん……ちょっと思いつかないかなぁ) (私もそうだが、もしかすると些細なことが原因かもしれん。少しでも気にかかったことはないか?) (ひょ、ひょっとして私の秘蔵コレクションがバレて!?) (……それこそ初耳だな、いったい何を集めてる?) (ち、違うよ! そんなに変なものじゃないから! ちょっと、男の人同士で、その、いろいろしてるだけで!) (またあの黒ダガーの作品か?) (あの人の作品は主人公が元マスター似だからいいんだけど最近は別の人のもちょっとってだから違うよ!?) (嗚呼……純粋で可愛げがあった頃のフォースは何処へ行ってしまったのだろう。私の妹があんなに可愛いはず がなかったということか) (だから!) 「……お前ら、アタシに聞こえてないとでも思ってるのか?」 こめかみをヒクつかせながら震える声で二人の会話に割って入るソードに、ブラストは溜息をついた。 「本当にどうしたのだソード。いつもなら先の会話の間に最低でも四度はツッコミを入れていただろうに」 「え? え? そんなところあったかな……?」 「すまないフォース、今だけ黙っていてくれ。話がややこしくなる」 むー、とむくれるフォースのことは一端置いておくことにして――そして秘蔵コレクションとやらを早々に 回収、もとい処分することを堅く胸に誓って――ブラストはソードへと語りかける。 「ソード、私たちは文字通りの三位一体だ。そのうちの一人であるお前がそんな調子では我々もいつものように 過ごすことができなくなる。相談のひとつもなしというのはいくらなんでも酷いとは思わないか?」 「なんでもないって……」 「どこをどう見てもそうは思えん。意固地なのはいつものことだが、今回は少し度が」 「なんでもないって言ってるだろ!」 しん、と一瞬にして場を静寂が支配する。 突然の激昂にブラストとフォース、そして誰よりもソード自身が驚きを隠せず絶句してしまっていた。 (――参ったな) 今度は自らの胸の内だけでブラストが呟く。 彼女自身、ソードの苛立ちはフォースがシンとデートをしたことが原因だと考えていた。 だがそれにしても今回は異常だ。単純にそれだけの問題とも思えないような雰囲気である。 しばし考えを巡らせて、ブラストは二度目の溜息と共に言葉を漏らす。 「……分かった。話す気はないということか」 「だから、さっきから言ってるけどなぁ」 「ならば我々ではなく適任者に頼むとしよう」 え? と声を上げるソードとフォースを無視し、ブラストはさくら亭の事務室へと向かう。 何をしようとしてるか見当もつかずその説明を待つ二人の気配に気付かないフリをしながら、真新しい便箋を 見つけ出しペンを取る。 そして、簡潔極まりない一文をさらさらと書き記す。 ――突然のことで申し訳ありません。少し相談したいことがあります。今度の日曜日、陽の当たる丘公園の 入り口で待ってます。 ――ソードインパルスより、シン・アスカ様へ。 「なっ!?」 「えぇっ!?」 驚く二人の少女をスルーし、テキパキと便箋を折り畳み封筒の中に入れ、宛先を書き切手を貼りつける。 「おおおおおい!? 何してんだよ!?」 「黙れ。今忙しい」 そのまま厨房から出てホールを過ぎ店の外へと赴く。タイミングがいいことに店の前に置かれた郵便箱の中身 を回収しに来た局員がいた。 「すまない。これも頼む」 戸惑いの表情を見せる局員に手紙を押しつけ、ブラストはそのまま店に入り店内まで戻った。 「で、何か用かソード?」 「何かじゃねぇよこの馬鹿! この何十秒かの間のことを徹頭徹尾懇切丁寧に納得いく形で説明しやがれ!」 「分からないか? デートの御膳立てだ」 「デェ!?」 「ト!?」 電光石火の如くセッティングされたスケジュールにソードとフォースは絶句する。 厨房まで戻ったブラストは椅子に座ると脚と腕を組み、確認するように告げる。 「今度の日曜……まぁ元マスターの予定が空いていればだが公園で会い相談のついでにデートをする。何か問題 はあるか?」 「ありまくりだろうが! なんでアタシの名前で誘ってんだおい!?」 「相談があるのはお前だからな」 「だからそんな必要は!」 「いい加減にしろソード」 ゾッとするような声音になったブラストにソードは気圧され言葉を詰まらせる。 「さっきも言ったが、お前が悩みを抱えれば私とフォースにも影響が出る。強引だろうがなんだろうがさっさと 解消してもらわなければ困る。一番迷惑なのは我々の方なのだからな」 「ブラストちゃん……」 一触即発の空気を纏うブラストにフォースが戸惑いの声をあげる。 そう、すでに影響は出ている。 ソードは悩みを抱えたままそれを相談することもせず、それに対しブラストは怒り、フォースは二人をなだめ ようとするが良い手段が浮かばないのか何もできずにいる。 その現実を身をもって味わったソードは歯がみしつつ、しかしブラストの言い分が分からないわけでもなかっ たので拗ねたように息を漏らした。 「……ったく、わぁーったよ! やりゃいいんだろ」 「ようやく覚悟を決めたか。まったく、手間のかかる奴だ」 「あ、あはははは……でも、どうするのブラストちゃん? 私たちがいたら相談はできないし」 「私とフォースは寝ていればいい。それなら二人きりで話せるだろう」 「ちょ、ちょっと待て! じゃあ、その、えっと、で……デートの方は」 「そっちも頑張れ」 「あ、ううぅ……」 縮こまる気配に嘆息して、ブラストはいくつかのプランを思案する。 「……まぁ、何とかしてみよう」 「大丈夫なの?」 「私にいい考えがある、というやつだ」 「信じていいんだろうな……?」 「私を信じろ」 「まぁ、そういう話も結構なんだけど」 と、突然響いた4つ目の声に顔を青くしつつブラストは振り返る。 「……この吐き気がするほど甘ったるいシチュー、どうするつもり?」 笑顔の仮面を被った鬼と化したパティにより、インパルスたちは軽く地獄を見たのだった…… 「……うーん」 「? マスターどうしたんですか?」 日も暮れて少し経った頃のエンフィールド。仕事を終えジョートショップに戻ったシンはアリサが夕食を作っている間に郵便を確認して、その中に自分宛の手紙があることに気付きその中身を読み……そして唸った。 「いやな、この手紙」 「ん? えーと……これホントにソードお姉ちゃんが書いたんですかね」 「違和感があるのは確かだな」 届け人の印象と簡潔であるが丁寧にまとめられた文のギャップに二人は揃って奇妙なものを感じていた。 「どっちかっていえばブラストお姉ちゃんっぽいですね」 「ますます理由が分からないな……でも、相談したいことか」 「どうするんですか?」 聞かれてしばしシンは悩む。 今週の日曜。暇といえば暇である。特に予定などは入れてない。 手紙自体は少しきな臭いものがあるが、相談したいことというのが気になるのも事実だ。 手紙の真偽の確認もすぐにできるが……妙な疑いをかけていると知れば相談も何もなくなりそうだった。 「とりあえず、聞くだけ聞くことにしよう」 「えっと、じゃあ私は?」 「あー……来ない方がいいだろうなぁ。相談ってことだし」 む~、と膨れるデスティニーをなだめようとするが、それよりも早く素っ頓狂な声が上がった。 「それってつまりデートッスか!? デートってことッスか!?」 ぎりりとつり上がるデスティニーの目を見ないフリをして、シンは足元で喚く犬のような狐のような動物を 見下ろす。 「……いつから聞いてたテディ?」 「伊達に大きな耳はしてないッス!」 「テディ、真剣な話なんだからからかっちゃ駄目よ」 台所から出てきたアリサがテディを抱え上げる。 それほど厳しい口調ではないのにあれだけはしゃいでいたテディがしゅんとうな垂れてしまったのはこの 程度の叱責すらも珍しいこの人だからなのか、とシンは思った。 「シンクン。私はその子のことはあまりよくは知らないけど、誰かに相談を持ちかけるということはそれだけ 信じられているということだと思うわ」 「信じられている……」 「だから、助けてあげなさい。あなたのことを信じてくれている人のために」 まるで本当の母親のように慈しみを込めて言うアリサに、シンは力強く頷いた。 「……私からも、お願いするです」 「あぁ、わかったよデス子」 拗ねたような様子でありながらそう言ったデスティニーの頭をシンはわしゃわしゃと撫でる。 少し乱暴ではあったが、デスティニーはそれに抵抗することはなくただくすぐったそうにそっぽを向いた。 ――日曜日の朝。 陽の当たる丘公園はいつにも増して人で賑わっていた。 子供は当然として、家族連れもかなり多く見られる。 かなりの広さを持ちその全容を知る者は極端に少ないと言われるこの公園とはいえ、ここまで活気づいている のは珍しいことだった。 そして、その入り口に腕を組んで人を待つ少女が一人。 いったいどこで仕立てたのか、元より少女の纏う鋼の衣の冷たさに温かみを与えるようなゴシック調のドレス。 燃えるような赤を和らげるように肩やスカートにあしらえられたピンクのフリルが風に揺れていた。 「――完璧だ」 「……おい、こりゃどういうこった」 誇らしげに笑う少女の内から抑えきれない怒気を滲ませた声が漏れる。 少女――ブラストは聞かれた意味が分からないと言うように眉根を寄せた。 「何か不満が?」 「ありまくりだこの馬鹿! 服にしたってそうだがなんでわざわざアタシの色に塗ってんだ!?」 ソードの言うとおり、ドレスで隠れていない装甲部分はソードのものと同じ色に変えられていた。 見た目だけであれば完全に『ドレスを着たソードインパルス』なのである。 「えっと、デートも相談もソードちゃんに任せるはずだったんだよね?」 「それができれば理想的だったが、どうしても踏ん切りがつかないようだからな。予定変更だ」 仕方ないとでも言うように溜息つきながらブラストは説明する。 最初はソードに変装したブラストがシンとデートすることで話しやすい雰囲気を作りあげる。いざ本題に入る というタイミングで入れ替わり、以降ブラストとフォースは引っ込むという作戦だ。 「これならば問題あるまい。多少の仕草などの違いは着慣れないドレスのせいと言えばいいしな」 「大丈夫、かなぁ?」 「そもそもブラストがアタシの真似できるのかが不安なんだが」 「何を言う、私を信じろ」 「すでに何を信じていいのかわからないんだが」 「あ……来た!」 フォースの声に目を向けると、シンが一人でやってきた。ほぼ同時にインパルスの姿に気付いたらしく、まっ すぐに向かってくる。 「デス子はいないか、好都合だな」 「おいおい、ホントに大丈夫なんだろうな?」 「信じろと言った」 そうしたやり取りの間に、シンは目の前まで来ていた。 「よお……ってまたすごい格好だな。いったいどうし」 「赤いぞ!」 「は?」 「マジ赤いぞ!」 「何の自己主張!?」 「っていうかそれのどこがアタシの真似だおいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」 「え?」 「「「あ」」」 ――5秒でバレた。 前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ
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前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ ……彼女は悔いていた。 主を危険に晒してしまったことに。主の危機に駆け付けられなかったことに。 こんなことにならないために常に気を張り巡らしていたつもりだった。 安穏とした日々を送りながら、主が安らいだ表情を見せる度にその想いを反芻するように確かめていた。 だが、その安らぎはいつの間にか彼女にも伝わり、密かに張り詰めていた神経を弛緩させていった。 さらに突如現れた相手に動揺して……今の状況に至ってしまった。 不甲斐ないにもほどがある。自分は彼の剣であり、盾であり、道具であるはずだったのに。 ――いらない。 余分な感情(モノ)などいらない。この瞬間で力尽きてしまってもいい、今一度この身を純粋な機械へと戻そう。 敵対するものをすべて薙ぎ払う機械に。 そう決意した瞬間、頭の中でガチリと何かのスイッチが入った。 そして思い出す。自分に何が出来るのか、自分は何のために存在するのか。 ――破壊、排除、殲滅…… すべてはマスターを守るため。マスターの願いを叶えるため。 ……今まで何故か抑え込まれていた能力を解放すると、今までの劣勢が嘘のようにあっさりと『敵』を無力化できた。 もちろん相手の油断と隙を突いた故のことではあったのだが、結果勝利を得られたのであれば何も問題はなかった。 眼下に倒れている、自分と瓜二つの『敵』に目を向ける。今は動けないようだが、致命的なダメージを与えたわけではない。すぐに復活するのは容易に予測できた。 ――止めを、刺さないと。 そうだ、みんな破壊してしまわなければならない。主――シン・アスカに危害を与えるような連中はすべて…… そこまで考えて、デスティニーはハッと我に返った。 ――マスターは!? どうして今まで気にもかけなかったのか、と自分を責めながらもデスティニーはシンの姿を探す。 ――いた! 両手に持ったアロンダイトを放り捨て、光の翼を広げデスティニーは主の元へ飛んだ。移動しな がら背中のビーム砲、腰のライフル、腕の盾、肩のフラッシュエッジを次々にパージする。今は わずかな重さでも煩わしかった。 ――もっと、もっと速く……! 己を守る武器と防具のほとんどを排除し、デスティニーは祈りながらスピードを上げていった。 シャドウがナイフを振るった瞬間、シンは刃を頭上へ掲げていた。 一か八か、フェイクはないと踏んでの行動だったのだろう。 しかし実際はまるで逆、ぐるりと反転して下段からの斬撃。 ――しまっ……!? 刹那の間に感じ取った死の臭い。その瞬間、シンの頭の中で何かが弾けた。 「っ!」 瞬時にシンは片足を上げ、ナイフの軌道に左足を割り込ませる。分厚いゴム製の靴底に刃が食い込み、半ばで止まった。 「――あ?」 予想外の行動にシャドウの意識が止まる。 一秒にも満たない思考の空白、そこにシンの活路があった。 ナイフと一体化した左足を引き戻す。突っ込んできた勢いもプラスしてシャドウは容易に前へと体勢を崩される。 位置の下がったその顔面に狙いを定め、シンは固く握り締めた左の拳を叩きつける。 ドガッ! という音と共にシャドウは仰け反りながら後方に吹っ飛んだ。 「やった……!」 荒い息を吐きながら、シンはようやく得た確かな手応えに思わず叫んでいた。 だが同時に、全身から冷汗が出てくるほどの戦慄も感じた。 ――これでもギリギリなのかよ!? 確かにシャドウの動きには何とか付いていけた。しかしそれはかろうじてというレベル、現状を打破できるというほどのものではなかった。 「……フン、よォやくお目覚めか」 仰向けに倒れこんだシャドウが呟きながらゆっくり起き上がる。ニヤついた笑みが張り付いた顔には、いっさいの打撃痕がなかった。 「そんな、なんで!?」 「いやいや、なかなかいいパンチだったぜ? ちっとばかし痺れた」 言いながらプラプラとシャドウは左手を振る。そのジェスチャーが示す意味を悟り、シンは自身の血の気が下がったのを感じた。 「いーいカンジに盛り上がってきたじゃねェか。こっちもそろそろ本気出すか」 ゆっくりとシャドウの左手が掲げられる。その掌中に火の玉が生まれ、徐々にその大きさを増していく。 「くっ……!」 「ヒャハハハハハハ! さァ、行こうかァ!」 大きく左腕を振りかぶりながらシャドウは叫ぶ。バスケットボールサイズまで膨れ上がった火球にシンは息を呑んだ。 魔法、未だシンの常識の外側にある圧倒的な破壊力が今まさに放たれようとしていた。 その時、 「マスタァァァァァァァァァァァァァァァ!!」 呼び声に思わず顔を向けたシンの視界に、光の翼を広げた相棒の姿が飛び込んできた。 「デスティニー!」 「何ィッ!?」 シャドウもデスティニーの方へと意識が流れる。それも当然だろう、倒すまではいかずともつい先程までは黒いデスティニーが優勢だったのだ。だがデスティニーの姿を見てシャドウは胸中で驚愕の声を上げる。 ――EBMだと? 時間を与えすぎたか! EBM――エクストリームブラストモード。 デスティニーの背部ウイングユニット、10枚の翼に内蔵されたスラスターが最大稼動と同時に『光の翼』を展開。 さらにミラージュコロイドを散布し高速機動を行いながら自身の残像を投影する ことによって相手を撹乱させるデスティニーの高速戦闘モードである。 光の翼によって通常時とは比べものにならない推力と機動性を得たデスティニーはそのまま真っ直ぐにシャドウへ突撃し、光を溢れるほどに湛えた右掌を突き出す。 今のデスティニーに残された唯一の武器――パルマフィオキーナ。 「チィッ……!」 舌打ちと共にシャドウはデスティニーに火球を放つ。ほぼ同時に突き出された小さな掌から光が飛び出した。 激突する紅蓮と蒼光。パルマフィオキーナはその名のとおり槍のごとく火球を貫き、その向こうのシャドウへと伸びる。 「――!?」 火球が砕け散ったのを目の当たりにしたシャドウは瞬時に首を横へ逸らす。 直後にこめかみを光の槍が掠めていき、マスクの一部が弾け散た。 「そッ……たれェ!!」 首を逸らすと同時に重心を右へ移動させたシャドウは、腕を突き出したまま懐に飛び込んできた デスティニーにカウンターの上段蹴りを放つ。 主の危機へと脇目も振らず駆けつけたデスティニーがその超人的な動きに対応することができ るはずもなく、防ぐことも叫び声すらも上げられずに弾き飛ばされた。 ――デスティニー……! 反射的に叫びそうになる衝動をなんとか胸中までに抑え込み、シンは行動を始めた。 デスティニーが作り出した、千載一遇の好機を無駄にしないために。 ナイフを瞬時に腰の鞘へと納めて右手でベルトに残ったダガー2本を引き抜き、うち1本を投擲する。 左手で投げられなくもないが正確さを重視するためには傷ついていたとしても利き手で投げる必要があったからだ。 狙いはシャドウ……ではなく、シンとシャドウのおおよそではあるが中間点に存在する岩。この 天窓の洞窟が出来た頃から存在していたであろう巨大な落石だった。 「シャドウッ!」 「ッ!?」 あえて声を上げて注意を引き、右手に残った1本を投げつける。刹那の間に行われた二度の 酷使にシンの右腕が限界の悲鳴を上げた。 放たれたダガーはなんなく避けられる。デスティニーのEBMにすら反応し切ったシャドウにはただ 真っ直ぐに飛んでくるダガーなど問題にもならないだろう。それはシンにも容易に予測できた。 だが次の攻撃――あらかじめ投げられた1本目のダガーが甲高い音を立てて岩に弾かれ、シャドウの死角から襲いかかった。 同時に、シンはわずかな腕の振りで左袖から飛び出した十字架のような細身のナイフを人差し指と中指の間に挟みこむ。 「味な真似、しやがんなァ!」 音で判断したのか、ダガーの飛んできた方向へ一瞥をくれた瞬間にシャドウは右手のナイフを振るい刃を弾いた。 ――まだだっ! 声なき雄叫びを上げながらシンは切っ先が地面に触れかねないほどの低空からナイフを投げた。 全力で放たれた細身の刃はシャドウの顔面へと飛燕のごとく跳ね上がりながら向かっていく。 だが、 「――ハッ」 鼻で哂うと共に、シャドウの身体が左足を軸にしてグルリと縦に回転した。 頭と位置を入れ替えた右足の踵が振り下ろされ、鮮やかすぎるほどにシンが渾身の力を込めて放ったナイフを地面に叩きつけた。 「らしくもなく小細工を仕込みまくったみてェだが、悪あがきもここまで……」 哀れみと嘲りを込めた侮蔑の言葉、だがそれがすべて口にされる前に、シンは、動いていた。 デスティニーが蹴り飛ばされてからシャドウの意識が離れるごとに徐々にではあるが間合いを 詰め、最後のナイフを投擲した直後に一気に飛び出したのだ。 すでに限界を迎えた右逆手でナイフを引き抜き、疲弊し切った左手を添える。 ――あと一歩…… だが届かない。黒衣の男は舌打ちをしつつも後ろへと退こうとしていた。例え一歩でも間合いを 外されてしまえばシンのナイフがシャドウを捉えることはもう不可能だ。 この機を逃せばもうシンに後はない。 シンだけではない、状況を考えればデスティニーの命運もここまでだろう。 ――また、また俺は…… 異様なほどに引き伸ばされた感覚の中、シンは最悪の未来を想起する。 何も守ることが出来ず、異邦の地で得られたかすかな安らぎも失い、こんな自分にこんな場所 まで共に過ごしてきた相棒まで奪われてしまう…… ――俺は、 シンの中で答えはあっさりと導かれた。道理で不可能であるのならば、無理を徹して可能にまで 押し上げてしまえばいい。 後のことなど、知ったことではない。 ――俺はっ……! 「う、おおおおおおおおおおおおおっ!!」 踏み出すはずだった最後の一歩を強引に跳躍へと切り替える。瞬間的に発生した強大な負荷でシンの左足に激痛が走った。 数歩分の距離を一息に稼いだシン。眼前には焦りに唇を歪ませたシャドウ。 全身から響く悲痛な叫びをすべて押し殺し、シンは下から上へとナイフを振り上げた。 「――――ッ」 誰かの声が聞こえた気がした。 シャドウか、自分か、あるいはデスティニーか。悲鳴か、雄叫びか、断末魔の声か。 それすらもシンには分からなかった。 分かったことは……両手に感じた分厚い『何か』を断った感触。 そして、地面に倒れこむ際に歪な形のナイフを握った右腕が宙を舞っていたのが視界の端に 見えたということだけだった。 「クリス、まだなのかい!? このままじゃボウヤたちが!」 「ご、ごめんなさい……あともうちょっとなんだけど」 焦りを隠しきれず語気を荒げてしまうリサとその迫力に圧されて慌てて炎の壁を隅々まで見渡す クリスを交互に見つめ、シーラは表情を曇らせながら轟々と燃え盛る炎を見上げる。 「シンくん、デスティニーちゃん……」 ――彼の力になってほしい。 親友との約束を思い出し、ギュッと胸の前で手を握り締める。 何もできないこの状況に胸が締め付けられるような想いを抱えながら、シーラはただただ二人の 無事を祈り続けた。 「っ、う……」 呻きながらシンは立ち上がろうとしたが、右手で体重を支えようとした直後に傷口から血が噴き出し再び地面に崩れ落ちた。 苦痛に顔を歪めながらも今度は左手で慎重に上体だけを起こす。 ――なんとか、動けるか…… 自身の状態を確かめ、辺りを見渡すと手足を投げ出して仰向けに倒れたデスティニーの姿があった。 「デス、ティニー……」 シンは半ば這いずるようにデスティニーの傍へと近づき、小さな身体を動かさないように状態を確かめる。 目立った外傷は見当たらず、やや苦しげではあるが規則正しい呼吸を繰り返していた。 ほっと息をついてシンは顔を上げ、 呆然と、目の前に幽鬼のように立つ黒い影を見つめた。 左手にはつい先程切り離された右腕が無造作にぶら下げられ、その断面からは鮮血――では なく、液体のような光の粒子が垂れている。 ……しかし、シンはそれ以上にシャドウの顔から目を離せずにいた。 パルマフィオキーナによって半ば千切れかかっていたマスクがずれ落ち、隠れていたシャドウの素顔がさらけ出されていた。 ――紅い、目……? 白髪、黒い肌、そして……真紅の瞳。 どこかで見た、しかし決して見るはずのない顔。 そんなシンの様子を気にかけることもなく、シャドウは無表情のまま右腕をくるくると回し、傷口の 断面同士をぐちゃりと合わせた。 合わせた隙間から漏れる光が徐々に減少し、やがて消える。 シャドウが左腕を離すと、まるで何事もなかったかのように右腕は繋がっていた。 調子を確かめるようにゴキゴキと間接を鳴らしていたシャドウだったが、ふとシンの方へと視線を 向け、ニヤリと口角を吊り上げて耳障りな笑い声を上げる。 ……自分の顔で自分の知らない笑顔を貼り付けて狂ったように哂う男。 シンは、その異形の姿をただ見上げることしかできなかった。 前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ
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前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ 「……時に、お前たちは今後どうするつもりなのだ?」 大衆食堂ではあまりにも浮きすぎた完璧なテーブルマナーで昼食を食べ終えたレジェンドは、食後の紅茶を 飲みながらインパルスにそう問いかけた。 「えっと、私たちはしばらくはここのお手伝いをするつもりですけど……」 「ま、拾ってくれた恩もあるしな」 「他に行く当てもない以上このまま過ごすつもりだ。まぁ、ソードさえ頷いてくれればジョートショップに駆け込むと いう選択肢もあるのだが」 だからアタシを弄るなーーー! と叫ぶソードを無視し、レジェンドはカップをソーサーの上にそっと下ろした。 「なるほど、このまま平穏を享受したいと。やはり今日ここに来て正解だったな」 「え? ど、どういうことですか?」 不安そうに尋ねるフォースに、レジェンドはあくまで冷静に用件を告げる。 「お前たちに話と、確認したいことが一つずつある。黙って最後まで聞いてほしい。」 訝しげに思いながらも、インパルスたちは揃って頷きを返した。 「もうすぐ、少なくともそう遠くない頃に私たちの同属が大量に現れるだろう」 その言葉にフォースは怯えを見せ、ソードは眉根をひそめ、ブラストは片眉を震わせた。 「お前たちも薄々感付いてるだろう? 詳しいことは何一つ分かりはしないが、『現れる』ということだけは確実、 これは予感と言うよりは確信だな。性質の悪いことに絶対と言えるほどの自信もある」 再びレジェンドはカップを持ち上げ、その中に映る自身の鏡像を見つめる。 「……そしておそらくはそのうちの何体か、いっそほとんどと考えてもいいだろう。間違いなく君たちの元主に 敵意を向ける。いや、すでに私たち以外に現れたMSたちも行動を起こしているのかもしれない」 インパルスは息を呑んだ。MSはザフトのものだけとは限らない。連合、そしてオーブ、シン・アスカにとってマイ ナスイメージしか持たないMSたち、それらが顕現すればどうなるのかは想像に難くない。 カップが口に運ばれ、琥珀色の液体が色素の薄い唇に音もなく吸い込まれていく。やがてすべてを飲み干し、 レジェンドは切れ長の目をインパルスに向けた。 「――さぁ、お前たちはどうする?」 「そういえば、本当にここにローラちゃんの身体があるのかな?」 休憩を終えて再び洞窟の中を進んでいる途中、沈黙に耐え切れなかったのかクリスがそんなことを口にした。 「……さぁな、カッセルじいさんの話を聞く限りじゃここにあるかもしれないってくらいだったけど」 そう返しながらシンはカッセルの言葉を思い出す。 セント・ウィンザー教会に住まう幽霊、ローラ・ニューフィールド。彼女の正体はなんと100年前王国時代であっ たエンフィールドの貴族の娘であり、その時代では治療が不可能とされていた病を患いコールドスリープして現在まで生き永らえていたというのだ。何が起こったかは分からないが精神だけが先に目覚め、生霊のような存在として教会で暮らしているのがシンたちの知るローラということらしい。 問題は精神が目覚めたことで肉体の覚醒も近く、急いでローラの身体を見つけ治療しなければ肉体とともに ローラが死んでしまうかもしれないということだ。 しかし100年もの歳月はニューフィールドという血筋を滅ぼし、ローラの身体がどこにあるのかという情報をも 風化させてしまったのだ。エンフィールドの生き字引であるカッセルすらもその在り処が分からないというほどなのだから、どこに存在するのか想像もできない。 そういったこともあり、目薬茸を探すついでにこの洞窟にローラの肉体があるかどうかを確かめることになったの だが…… 「そういう大事なことはもっと早く教えろって話だよなぁ」 「そ、そうだよねぇ」 苦笑して同意するクリスを横目で見ながらシンは嘆息する。アリサの目はともかくローラの身体のことは一刻を争う問題なのだ。 「でも、早く見つけてあげないと……」 シーラが辛そうに表情を曇らせながら呟いた。時間が出来れば教会へ赴きピアノを弾くシーラにとっては特に他人事では済ませられない問題なのだろう。 それはシンも同じであった。初対面の時から馴れ馴れしく付きまとわれ、トラブルに巻き込まれたことは一度や二度ではないのだが、 ――そんな話を聞いて、放っとけるわけないよな。 何度かデスティニーの世話を見てもらったこともある。何よりもデスティニーの友人として接してくれた一人でも ある。なんとしてでも助けたいという想いがシンの中にはあった。 そこまで考えて、シンはいつもよりも周りが数段静かなことに気付いて肩越しに後ろを向いた。 クリスとシーラの背後、俯きながら力なく飛ぶデスティニーの姿が見えた。 泉でのやり取りが原因であるのだろうが、だからといってシンにはどうすることもできなかった。リサの忠告もあり どうにか最悪の展開にはならないようにと考えてはいるのだが、上手いフォローが思い浮かばないのだ。 「…………」 最後尾を歩くリサから何か言いたげな視線が飛んできた。その意味を正しく受け取りながらも、やはりシンには 何も言えなかった。 ――戦え、とは言えない。でも、じゃあどうしたらアイツは納得するんだ? もう何度目かの自問、考えれば考えるほど分からなくなってくる問題にシンは深みに沈んでいくような錯覚を 感じていた。 「――あっ、あれ!」 突然あがったクリスの叫びに全員の視線が前へと向く。 暗闇の道先に眩い光が差し込んでいた。どうやら開けた場所に出るらしい。 「まさか、洞窟を抜けて出口に着いたんじゃ……」 シンもシーラと同じことを考えていた。ここに辿り着くまでにいくつかの分かれ道を適当に選んできたのだ、目薬 茸がある場所ではないところへ行き着いてしまったとしても不思議ではない。 「リサ、他の連中が来る気配はないか?」 「後ろからは物音ひとつ聞こえやしないよ。いまだに足止めを食らってるのか、別の場所に行ったかまでは分からないけどね……どうする?」 この場所の地図はなく、この道が正しいと判断できる要素も近くにはない。 行くか戻るか、自然と集まった視線を受けながらシンはしばし黙考し、口を開いた。 「――行こう。何もないって分かったら全速力で戻るぞ」 全員の顔を見渡して頷いたことを確認し、シンは光差す道へと進んでいった。 ……そこは外ではなかった。 大きな円形に切り抜かれた空間。硬い岩と土が続いていた地面には鮮やかな色の芝が広がり、巨大な木が 中央にそびえている。あきらかに今までとは違う光景が広がっていた。 その理由は、 「……空」 この広場には天を覆う岩盤がなく、まるで切り取られたような蒼穹が広がっていた。天井の部分は完全に崩落 したらしく、周囲には大小さまざまな岩が転がっていた。 ――『天窓の洞窟』の名にふさわしい、幻想的とすら感じられる光景だった。 「シンさん、あれ! 木の根元に!」 クリスが指差す先、大木の根元周辺にはキノコらしきものが生えていた。 「あれが目薬茸か?」 「他にそれっぽいものは見当たらないけど……」 木に生えたキノコは一種類、つまりこれが目薬茸ということだろう。 「とりあえず、ここにあるのを持てるだけ持って帰ったほうがいいだろうね」 「よし、じゃあ片っ端から集めるか。クリス、そのリュックならかなり入るだろ。それに入れてもいいか?」 「あ、はい」 「デス子、お前も手伝ってくれ……デス子?」 返事がないデスティニーを探して辺りを見渡すと、すでに巨木の下で目薬茸を採っていた。 「デスティニー、ちゃん……?」 シーラの呼びかけにも答えず、デスティニーは無機質な目でじっと目薬茸を見つめている。まるで何を考えて いるか分からない、感情すらも読み取れない瞳だった。 ――まさか、 一つの予感に辿り着いたシンたちの思考がシンクロする。だがデスティニーは螺子が切れた人形のように動か ない。瞬きすらもしてないのではないかと錯覚するほどに硬直している。 静寂の間、そして…… 「あむ」 「食うなぁーーーーーーーーーっ!!」 そのまさかを目の当たりにして電光石火の疾さでデスティニーに接近したシンは問答無用でその小さな頭を叩き落とした。 「きゃうっ!? 痛いじゃないですかマスター!」 「うるさいっ! 何いきなりいつもどおりになってるんだよお前!?」 「お腹が減って元気が出ない時に急にキノコが見つかったので」 「ので、じゃない!」 はぁ、とため息をついてシンは大仰に頭を抱える。 ――さっきまで俺はいったい何を悩んでたんだ? 先ほどまでの沈んだ様子はどこに行ったのか、デスティニーが纏う気配はいつもと変わらぬ食い気ばかりだった。 「とにかく、さっさと目薬茸集めるぞ。絶対に食うなよ」 「む~、なんでそんなに不機嫌なんですかマスター?」 「全体的にお前のせいだっ!!」 いつものようにシンはデスティニーに盛大に突っ込みを入れる。リサたちも普段と変わらない二人に戻ったこと に対して呆れながらも安堵の表情を見せていた。 「みんなも見てないで集めてくれって……」 叫び疲れたのか、どっと肩から力が抜けたシンはフラフラとした足取りで目薬茸のひとつへと向かっていった。 「む、マスターに何かあったような感じがするです」 「あったといえばあったんだけど、アンタが気にするようなことじゃないさ……話したところで多分理解できないだろうしね」 リサのボヤきに頭上で?マークを浮かべながらもデスティニーはシンの後を追った。 「さて、私たちも集めるよ」 巨木の周りにリサたちも散らばり、大樹を囲うように生えた目薬茸の採集が始まった。 目薬茸の数はシンたちの予想を超えており、クリスのリュックに目一杯詰め込んでもかなりの数が残るようだっ た。多めに見積もってもアリサの目を治すためならば十分すぎるほどだろう。 「む~~~、何があったのか教えてくださいよぅマスター」 「うっさい、もう済んだことをいちいち掘り返すな。それと……さっきは悪かった、な」 「え? 何か言ったですか?」 「っ、なんでもないっ!」 あまりにも小さな、それも当人にとっては意味も分からないであろうシンの謝罪はデスティニーに届かず消えた。 目薬茸の採集を終え、シンたちは辺りの調査へと移った。目的はもちろんコールドスリープの処置を受けたローラの探索だ。 カッセルの話によれば、ローラの本体は古来より神聖な場所で保管されている可能性が高いとのことだった。 つまるところこの天窓の洞窟においてはシンたちが立つこの広場こそがその場所にあたるのだが…… 「ないみたい、ですね」 この広場には他の場所へ通じると思われるような横穴もなく、なんらかの仕掛けがあるわけでもない。クリスの 言うとおり、この場所にローラの身体はないようだった。 「ってことはカッセルじーさんの見込み違いか……しかたない、目薬茸は回収したしジョートショップに戻るか」 この洞窟で出来ることはすべてやり遂げた。あとはジョートショップに戻るだけ、その途中でモンスターや自警 団、仮面の男たちの襲撃にさえ注意すればいい。多少の危険はあったとはいえ誰一人欠けることなく五体満足でここまで来れたのだ、何も問題はない。 ……そのはずだった。 「――あァ、そいつは困る。こっちの用事がまだ済んでないんでなァ」 「っ!?」 突然降ってきた声に全員が視線を上げる。崩落し、吹き抜けとなった天井から差し込んでくる光の中に黒い 人型の影が浮かび上がっていた。 ちょっとした家屋ならば縦に三つほど積めるほどの高さから飛び降りてきた影は猫のようにしなやかに衝撃を殺し、芝生の上に危なげなく着地した。 「な……」 シンの口から驚愕の声が漏れた。その登場もさることながら影の姿を目の当たりにしてだ。 ――浅黒い肌の上に拘束衣のような黒い服、対照的に異様なほどに白い髪。さらには両目を塞ぐような赤い 一つ目が描かれた眼帯。腰には巨大なナイフを無造作にぶら下げている。 異常な登場、異常な服装、だがそれよりも目の前に現れた影が『人間』であることにシンたちは驚きを隠せなかった。 この世界には数多のモンスターが溢れている。中には亜人と呼ばれる人間に近い姿をしたモンスターも存在 するが、シンたちが知る限り人間に酷似したモンスターは皆無だ。 つまり、この男は人間である可能性が高い。人間離れした身体能力を持ちながら、である。 「お前は、いったい……!?」 腰からナイフを抜いてシンは影に向かって問いかける。まだ何者かも分かっていない相手にナイフを向ける、 そんな自身の行為に疑問が浮かんだが、すぐに自身の震えから理解した。 ――恐れているのか? あいつを? そんなシンの様子を知ってか知らずか、男はキョトンとした様子を見せたもののすぐに口の端を吊り上げ嘲るよ うに答えを返した。 「さァて、なんなんだろうな? お前には分かるか、シン・アスカ?」 三日月のように弧を描いた唇の中に鋭い犬歯が鈍く輝きを放っていた。 前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ
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二次創作とは、オリジナルの作品以(原作)のストーリー、世界観、キャラクターなどを元に、二次的に創作された、独自の作品です。 二次創作はイラスト、CG、動画、漫画、小説フィギュアなど多岐に渡ります。 原作には登場しない独自のキャラクターを追加することや、原作のキャラクターを用いて別世界の話を構築したり、原作からは世界観のみを借用し、キャラクターやその他の要素を独自創作する場合もあります。 二次創作では、原作には無かったり原作と矛盾する「ネタ」「イメージ」などの設定が作られることがあります。 これは二次設定と呼ばれます。 広く認知されていることもあれば、持ち出すだけで非難や罵倒を受ける場合もあり、どのくらい受け入れられているかは様々です。
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前ページ悠久幻想曲ネタ 「――これはまた、なんとまぁなタイミングでのご登場ですなぁ」 波紋のように混乱が広がっていく広場、その片隅のとある建物の影でダークダガーはこの騒動の発生源である 一角を窺っていた。 シンとデスティニー、カオス・ガイア・アビスの三人組、そしてデストロイ…… 下手をすればあの場に自分もいたのかもしれないと考えると中々な具合に背筋が冷え込むメンツだった。 「とはいえ、参りましたな~。まさか対象がすでにカオスさんらと接触してたとは。まったくどう報告していい のやら……」 「言い訳を聞く気はないぞ」 「おぉう!?」 背後からの声にビクッと身体を震わせて振り向くと、いつの間にか影に溶け込むように二つの人影があった。 ひとつは黒いデスティニー。もうひとつは――シャドウ。 「あ、あはははは……珍しいですなぁこんな街中に来るなんて」 「元より来るつもりなどなかったのだがな。シャドウ、お前が見たがっていたのはあれか?」 口ぶりから察するに、ここに来たのはシャドウの意思であったらしい。だが話を振られた本人はそれに応える こともなくじっとデストロイを見つめているようだった。 「……おい、聞いているのか?」 「あァ? 何か言ったか?」 顔を向ける素振りすらない様子に黒いデスティニーは不機嫌そうに眉間に皺を寄せたが、それ以上の反応は 見込めないと判断したのかそのまま壁に背を預けて腕を組んでいた。 いつもと違う様子にダークダガーも訝しんだが、どう聞いても答えなど返ってくるとは思えなかったので自分 のやるべきことを優先することにした。 「それじゃま、私はあの人に報告しに行きますかね」 「お前は最後まで見ないのか?」 「ま~そうしたいのは山々なんですがね、所在がハッキリしたらすぐ報告しろって言われているので。まったく 人使いが荒いんですよね~。ヒキコモリ気質というかなんというか。その点黒い旦那と黒いお嬢さんは自発的で いやんもう大助かりっていうか」 「別にお前のために動いているわけではない」 「ぐっは!? その欠片も愛のないザックリ具合がたまんねっす!」 ハァハァと荒い息をつきながらもダークダガーはもう一度ちらりとシャドウを窺う。 顔半分をマスクで覆われている男の感情などそうそう分かるものではない。彼女自身、今まで会った中ではっ きりと分かったのはその口元が凶暴に歪んだときくらいのものだった。 しかし今は違う。口元だけではない、全身から滲み出る気配がかすかながら複雑な感情を覗かせていた。 ――はてさて、どう判断していいやら…… 思考を巡らせつつも答えなど出るはずもなく、また答えを得たとしても自分には何ら関係がないと割り切って ダークダガーは無言で会釈をしてその場から去った。 ……残された黒いデスティニーも再度シャドウの横顔を見つめ、そしてシンたちの方へと視線を移した。 ――がおー。 デストロイの発した第一声はシンだけでなくカオスたちまでも呆気に取られるほどの衝撃があった。 いや、これを衝撃と呼んでいいのかは微妙だったが。 「えー、と……?」 前に立つデスティニーが戸惑った声を漏らしつつカオスへと目を向ける。その視線で我に返るとデストロイの 隣へと飛び降り声をひそめて――といっても丸聞こえだったが――叱責を始めた。 「ちょっと、なんですの今のは?」 「…………?」 「なにかいけなかった?」と言うようにデストロイは首を傾げる。カオスに続き降りてきたアビスも苛立ちを 滲ませた口調で告げる。 「何も喋るなって言ったろ? どうしろってんだよこの空気」 最後に降りたガイアも珍しく眉を吊り上げながら厳しく責める。 「萌えが足りない。もっと可愛らしく」 「……うん」 「「お前か!? またお前の仕業か!?」」 いつもの如く漫才を始めた3体+1にデスティニーは呆れながら半ば戦意を喪失させていた。もう適当にあし らってこの場を去った方がいいのではないかとシンに指示を仰ぐために振り返り、 そのあまりにも冷たい目を見てぎょっとした。 「――お前たちは、」 一度落としかけたナイフを強く握りしめ、シンは静かに口を開く。 それほど大きな声でもなかったにも関わらずカオスたちが口論を止め一斉に振り返ったのは、それに込められ た例えようもない迫力のせいだった。 「自分たちがいったい何を連れて来たのか、本当に分かってるのか……?」 怒りを徹底的に押し殺したようなくぐもった声。その視線の先には、どこか悲しそうに表情を歪ませたデスト ロイがいた。 「ふ、フン! そうやって凄んでももう遅いですわ。さぁ! やっておしまいなさい!」 ビシィッ! とカオスがシンたちを指差す。その圧倒的な火力を誰よりもよく知っている二人は一斉にデスト ロイの攻撃に対応するために意識を向ける。 だが、デストロイは一向に動く気配がなかった。 それどころかあくびを漏らし眠たそうに眼を擦っている。その仕草は、どことなくガイアに似ているような気がした。 「こ、こら! なんですかその態度は! しゃんとなさい! やる気を出して……ヤる気を出せって言ってん だろコラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」 二度目のあくびを見て素を出したカオスの怒号だったが、当の本人は視線を向けることもなく目尻に涙まで 浮かべている。 その後もなだめようとするアビスを無視して散々喚き散らすカオスだったが、デストロイはほとんど反応らし い反応も見せず――ガイアにだけはたまに返事をしていたが――今にも踵を返して帰りそうなほど覇気の欠片 もない様子だった。 怒鳴りすぎて息が切れたのか、ぜーはーと荒い呼吸をひとしきり繰り返し、地団太を踏みながらヤケクソ気味 に叫んだ。 「あーもう! 戦ったらなんでも言うこと聞いてあげますから! 今日だけでいいから私の言うことを聞きなさい!」 まるで子供のように喚き散らすその姿に誰もが呆れ果てていたが、直後に全員が驚愕に目を見開いて一点に 視線を向ける。 先ほどまで一切反応を見せなかったデストロイが、じっとカオスを見つめていたのだ。 「な、なんですの……?」 カオス自身も意外な反応に戸惑っていたが、やがてその視線の意味を悟る。 ――「なんでも言うことを聞くというのは本当か?」と。 「え、えぇ! なんでもすることをここに約束しましょう!」 「できることならですけど……」と小声で付け足し、再び指を突き付けながらカオスは叫ぶ。 「さぁ! 今こそ復讐の時です! ブッ壊してさしあげなさい!」 そのとき、シンははっと息を呑んだ。 カオスが下した命令に、ではない。それを受けたデストロイが安心したように表情を和らげたのだ。 その顔は単に戦えるからなどといったことではなく……そう、まるで救われたかのように見えた。 「マスター!」 デスティニーの声にシンの意識が引き戻される。気が付けば無表情へと戻っていたデストロイが、顔の高さ まで右手を掲げていた。 五指に光が宿ると同時にデスティニーがシンの前に立ち塞がり、ビームシールドを構える。 ――直後、光が弾けた。 「がっ……!?」 「デス子!? ぐっ!」 五条のビームのうち三本が直撃して弾き飛ばされたデスティニーを何とかシンは受け止める。標的を見失った 残る二本の光弾が石畳に直撃し、広場に爆音が轟いた。 事態を遠巻きから見守っていた人々から悲鳴が上がる。ある程度の騒動であれば慣れたものであるこの住人で あっても蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っている……その光景がシンには信じられなかった。 まるで、戦場のようだった。 ――馬鹿か、俺は!? いつまで頭をぬるま湯に浸けているつもりなのかとシンは自身を叱責する。 ここは戦場だ。戦場になってしまったのだ。 そしてその根本的な原因は、自分にあるのだ――と。 「マスター?」 「あ……大丈夫か、デス子?」 頷きを返したデスティニーをそっと放しデストロイをシンは睨む。追撃を仕掛けてこないのは妙ではあったが 腕を下ろす気配はない以上未だ戦う気であることは間違いないだろう。 周囲にはまだ人がいる。先ほどのビームで近くからは離れているが巻き込まれる危険はまだ高い。カオスたち よりもまず避難を優先しなければならない状況だ。 「……デス子、あいつの足止めできるか?」 「はい!」 「頼む。できるだけ高さをとって戦ってくれ。これ以上被害を広げさせるな」 デストロイに背を向けてシンは駆け出す。振り向くことはない。背後の心配も含めてデスティニーのことを 信じているが故に必要はない。 だから、 「――行かせると思いまして?」 目の前に立ち塞がった3体は、自分の力でどうにかしなければならないのだ。 足を止めることなくシンは鋭い声を上げる。 「そこをどけ!」 「はい分かりました……とでも言うと思ってんのかこのクソッタレがぁ!!」 「あー、もういちいち指摘すんのもめんどくせぇや」 「オープンハートしすぎて周りはドン引き。でもきっとコアなファンはできるよ、やったねカオス」 「「おいやめろ」」 いつもの如く掛け合いをしながら各々武器を向けてくる3体に、シンは密かに右手に握り込んでいた玉を投擲 する。 「ハッ! そう何度も同じ手に引っかかると思ってんのかぁ?」 鼻で笑うアビスに倣い他の2体も飛んできた玉を警戒せずに各々の武器を構える。既に煙玉の存在を聞いてい たのだろう。怯みもしていない。 それを確認してシンは速度をそのままに、目を閉じ耳を塞いだ。 直後、 ――バンッ!!! 凄まじい破裂音と、目蓋の裏からでもはっきりと分かるほどの強烈な閃光に顔をしかめながらシンは目を開ける。 不意の音と光を直に受け折るように身体を丸めた三人のすぐ傍を駆け抜けやり過ごす。モンスター相手でも 十分に効果を発揮するほどの閃光玉である。しばらくは目と耳がまともに機能しないだろう。 そう判断し、3体に背を向けたまま逃げ遅れた人々へと一気に駆け出す。 「なっ……めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 怒気に満ち満ちた声に反射的に背後を振り返る。 顔を手で抑えつつも、指の間から閃光と大量に流れ出る涙で真っ赤に染まった目を覗かせたカオスが睨みつけていた。 いつの間にか機動ポッドを射出し、砲身を展開させている。 ――マズイ! 無防備な背中を晒したまま、それも周囲に身を隠すような障害物もない。 あとは撃たれるしかない。魔法で再現されたビームの熱量は容易く人の身体を貫通するだろう。その様を想像 して怖気が背中を走る。 「死――――」 カオスが叫ぼうとした瞬間、上空から何かが落ちてくるような風切り音が聞こえてきた。 直後、カオスたちのいる位置が爆ぜた。 「なっ……!?」 思わず足を止め迫る煙と熱から顔を庇う。何が起こったのか分からないまま、爆心地に目を向ける。 時折ピクピクと痙攣しながら3体は完全にノビていた。爆風に吹き飛ばされて頭でも打ったのか、とりあえず 五体満足ではあるらしい。 ――再び風切り音。空を見上げるとミサイルが飛び交っていた。デスティニーが爆発に煽られながらも眼下の デストロイに向けビームライフルを連射している。どうやら先ほどの爆発は目標をロストしたミサイルが飛んで きたようだった。一応様子を見ているとどうやら3人とも気絶しているだけらしい。 「……ついてないな、お前らも」 白目を剥いて痙攣しているカオスにそう呟いて、今度こそ振り返ることなくパニックを起こしている人々へと 駆け寄る。 「落ち着いてください! 早くあっちへ!」 我に帰り逃げていく人の背を見送り次の集団へと向かう。かなりの人がいたこともあり広場から完全に人を 避難させるのはかなり時間がかかるかもしれない。 未だ爆音とビームが発射される音が聞こえてくる。どうやらすぐに片が付けられるような相手ではないらしい。 厄介な、そう思い舌打ちをしながらも避難の誘導を続ける。 ――そんな中、頭の片隅ではあることに気が付いていた。 カオスたちが気絶してしまった以上、デストロイを止める方法は限られてしまう。 即ち、無力化……おそらくは殺してしまうしかないことに。 だがその現実を疼くように沸いた胸の痛みと共に押し隠し、シンはただひたすらに逃げ遅れた人たちへと呼び かけを続けた。 <次回予告> ハーイ! FREEDOM&JUSTICEの『尊敬するアニメ監督は金子ひらく監督』な方、ストライクフリーダム です。っていうか最近私の出番少なくね? おかしくね? 私ライバルキャラよ一応。いやむしろおっπ分が 足りんぞそっちの方が重要だいったい何をしとるか。 というわけで! 次回私めは無断でこの戦いに乱入し新キャラのバストサイズ測定を行うことに大決定しま した。ノビてる3人娘もついでにおいしくいただく紳士回! たっぷりと、しっかりと、ねっとりとその様子を 克明に解説を交えて実況をし……え? 何? 次の投下はアイマスか東方? ……よし、これまでの予告はなし! 次回! え? ふんふん、へーそう。 SEE YOU! 前ページ悠久幻想曲ネタ